今年のスポーツ界の話題の一つに、日本プロ野球界の存続、或いは発展への戦略なりを論じた報道が多かったと思います。 若い世代は野球離れとか、サッカー世代とか、野球の試合や結果に一喜一憂する機会が少なくなったと思います。
私の父は典型的な野球世代の一人で、巨人が勝てば焼酎の晩酌が更に進み、負けるとお袋に当り散らしたり、テレビの スイッチを切って寝てしまう、そんな我がままで短気な人でした・・・ その巨人の中でもひいきは日本のスーパーヒーローでもあった長嶋茂雄、背番号3でした・・・ 子供心にも憶えていますが、確かに長嶋は比較するものがないほど凄かった・・・ あんな選手はもう出て来るようには思えないのです。 空振りすればその反動でヘルメットが飛ぶし、悔しさでバットを地面に叩きつけたり、ホームランで気分が乗るとスキップを してホームベースに帰ってきたり、まるで子供みたいな選手でした・・・ その上、チャンスにも滅法強かったのです。 ここぞという時に期待通りに打つのです。 このような選手だったからこそ、数々の名勝負や相手選手からも一目置かれたのだと思います。
私の田舎では当時、プロ野球と言えば巨人の放送しかなかったような地方でした。 当然のこととして自然と巨人ファンになって行きました。 なって行ったというより、なってしまっていたというのが正確な表現だと思います。 私自身もそうですし親父もそうですが、更に正確に言うと、巨人ファンではなく長嶋ファンなのです。 今、私も年を重ねて改めて思うことがあります。 それは、長嶋の素晴らしい「人間性」についてです。 この人間性はヤンキースの松井にも共通するものだと思います。 その人間性とは「人の悪口を決して言わない」ことです。 簡単なことですが、これが出来る人が殆どいないのです。 50年以上生きていますが、多かれ少なかれ人間は人の悪口を言うのが普通です。 しかし、長嶋や松井は生まれながらの性格なのか、後天的な生き方から学んだのか分かりませんが、兎に角、悪口を言いません。 こんな人に対し、非難したり悪く言う人が少ないのもまた事実だと思います。 敵でありながら愛される、或いは尊敬される、そんな種類の人間ではないでしょうか。 言わば、いるだけで存在感がある、雰囲気が変わる、そんな人だと思います。 さて、私の少年時代の遊びといえば「草野球」でした。 初めて買って貰ったグローブは、表面はビニールで中にはわらの紐が入っていた粗末なものでした・・・ それでも嬉しかったことを憶えています・・・ 野原で、道路で、三角ベースや、軟式や柔らかいゴムボールで、手製のバットや竹箒で、グローブのない子は素手で、 お転婆な女の子も混じって、毎日、毎日、暗くなるまで野球ばかりやっていました。 そんな時、どこからともなく「何々ちゃん、ご飯ですよー」という優しいお母さんの声がし、一人消え、二人消え、やがて 野球もおしまいになるのが常でした。 その頃の夕焼けの美しさや、風の香り、空気の肌触り、そしてお母さんの優しさ・・・ こんな情景をありありと今でも憶えているのです。 長じてそんな幼い頃に遊んだ場所を訪ねたことがありますが、こんな狭い所で遊んでいたのかと不思議な感じがしました。 プロ野球は今、私には面白くありません。 ワクワク、ドキドキがなくなりました。何故なのでしょうか?・・・ どこを観ても同じような選手、同じような攻め方、同じような点の取り方、同じような個性でつまらないと思います。 打ち方も同じような選手ばかり、投げ方も殆ど同じです。 今は巨人が勝っても負けても昔ほど何も思わないのです。直ぐに忘れますし。
長嶋が現役を引退する日、当時の仕事仲間の家に集まり、皆で泣きました・・・ それは時代が終わる淋しさと自己への決別だったと思います。 人は必ず、いつの間にか大人に成長します。 その際に、いろいろなものを捨てたり置いて行きます。 思い出や友人、或いは親兄弟、或いは生まれ育った山河や風景、そしてそれまでの自分の半生・・・ 新しい出発は懐かしい思い出との別れでもあります。
はるか以前、私にも幼少期や少年期がありました。 そこはいつも懐かしい故郷です。 死んだ母もいます。年老いた親父もいます、懐かしい食べ物や風景や空気もあります。 田舎に帰省した際には、小学校や幼い頃に住んでいた町や野球をよくやった野原や道路を訪ねてみたいと思います。
奇しくも今朝の某新聞でシダックス監督の野村克也さんの1ケ月間に渡った話が終りましたが、私は全てを読んでみて この方は野球を非常に愛されている方だなあと感じました。 人は表現が違うだけで忌み嫌う人も多いですが、芯を見続けることが出来れば、長嶋や松井みたいになれるのでは ないでしょうか・・・ 心して精進して生かなければならないテーマだと思います。 私にとってスーパーヒーローはやはり過去も今も未来もヒーローなのです。 来る7月5日が待ち遠しい一人でもあります。
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