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大切にしていたもの 第43号

先日、10年以上に渡って大切に使っていました、あるものが壊れてしまいました。 いつ、どこで買ったのは憶えていないのですが価格だけは憶えています。 価格は、18,000円でした。 この大切なあるものは、私が働いている間はいつも一緒でした。 この大切なあるものは、主人がいない時でも、陰日なたなく常に働いてくれました。 本当に、なかなかの主人思いで、いい奴だったんです。 私の戦友だったんです。

3月のある水曜日、それは突然やって来ました・・・ 調子が悪くなったかのように、一部の部品が外れてしまいました。 その翌日、今度はある場所に来ると全く動かなくなって止まってしまいました。 何とかその先へ進めようと強制的に操作してみましたが、嫌なのか、先へ進みませんでした。 この大切なあるものは電池も使うのですが、電池は切れていませんでした。 結局、死因は老衰による寿命と主人である私は判断しました。

懐かしく思い返してみると、この大切なものには癖もありました・・・ 特に、腕先が擦れたりすると私から離れてしまい、よく困ったものでした。 それでも、そんな時に必ず外れる小さな部品がなくなることもなく、10年以上も付き合ってくれました・・・ 今、私は、感謝の気持ちで一杯です・・・ 用を果たさなくなった奴なのですが、捨てることが出来ず、我が家の私の机の上のそのままおいてあります。 ものなのに人の気持ちが乗り移っているような、そんな不思議な気持ちがして捨てられません。 それまでは壊れたら新しいものを買い求め、その時に捨てていました。 「ものは大切にしなさい」と、幼い頃、母親によく言われたものでした・・・ 「お米は最後の一粒まで食べなさい。お百姓さんが苦労して作ってくれたんですから」ともよく言われました。 当時はそんな家庭が普通だったと思います。 鉛筆一本でさえ、最後の最後までキャップを付けて使ったものでした。 ノートも一枚一枚が大切な時代でした・・・

ものが溢れる現代は幸せな時代ではありますが、ものを大切にする心は、その分、減ったように思います。 価格も安くなり、手間暇かけるよりその方が安くつくという人もいます。 それは恵まれた人の言い分であり、人間本来の姿ではないように思います。 地球上には、飢餓に苦しむ、食べるものさえない人達が沢山います。 今、この瞬間にも確かに生きているのです。そして、この瞬間に死んでもいるのです。 私達がものを少しでも大切にすれば、どこかで同じ人間が助かるのではないでしょうか? 大切にした分、欲しいものを我慢する分、人の命が助かるのではないでしょうか?・・・

私は経営者です。 利益を求めることが、会社を存続させる為に必要です。 しかし、人を騙したり、追い詰めたりしてまで求めることには反対です。 近江商人の精神に「三方良し」というのがあります。 「売り手よし、買い手よし、世間よし」です。 この三番目こそ、世間=社会=善行だと思います。 また、「陰徳善事」という精神もあります。

話が大きくなりましたが、ものを大切にする精神はこのように拡がり、大きな教義にも 繋がります。 最近は、人間がもの並みに扱われ、粗末にされ始めています。 「人間を大切にする」 これこそが企業発展の楚ではないだろうかと、確信のない未熟な私の感想です。 言葉は簡単ですが、実現するには、それこそ大変な時間と労苦が必要です。

私が大切にしていたあるものとは、先月のタイトルと奇しくも関係のある「腕時計」でした。 今、私の腕には思い切って買い求めた電波時計がついています。 時を刻むには最高の精度です。 やがて、この新しい友人も戦友になるだろうと思いながら見つめています。 10年、いや20年、長生きして欲しいと思う我が分身です。 そして、壊れた先代には「永い間、ご苦労様でした。ありがとう」と言いたい。 感謝。

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