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小さな出会い 第12号

先月初旬、会社設立以来、初めて社内旅行を実施しました。 社員の日頃の頑張りに出来る限り報いたいと、思い切って韓国のソウルへ行きました。 よく言われますが、「聞くと観るとは大違い」の旅行となりました。 今回はそのお話をしたいと思います。

まず、実際に出掛けてみる前に、私自身が抱いていた韓国のイメージがありました。 もし、読書の中に韓国の方や在日の方がいらっしゃいましたら、この場をお借りし謝りたいと思います。 「戦争中のことがあり、日本人は嫌われているのではないだろうか?」 「日本に追いつき追い越せの雰囲気が強いのではないだろうか?」 「軍事境界線が近くにあり、軍事的緊張があるのではないだろうか?」 「キムチの臭いがどこでもしているのではないだろうか?」 ・・・・・・・・・・・・・・・こんなレベルの低い先入観でした・・・・・・・・・・・・・ 今となっては、こんな馬鹿げたことを思っていた自分が恥ずかしい限りです。 正に、聞くと観るとは大違いでした・・・

実際、街中に出てみて、驚いたことが沢山ありました、(これも偏っているかも・・・) 1.街中がとても奇麗でゴミが落ちていない。 2.高層アパートが多く、日本よりも間取りが広い。 3.道路が広い。 4.駐車違反が少ない。 5.日本語、英語が殆どの所で通じる。 6.キムチが美味しい。またなければ食事が締まらない。 7.生きているエネルギーが日本人より高い。 8.走っている車の多くが乗用車で、現代自動車が大半。 9.路上生活者を見なかった。 10.ビールのアルコール度が低い。 11.コーヒが薄い。 12.茶髪の若者を見かけなかった。 13.ハングル文字、言葉が全く分らなかった。 14.漢字をまず見かけなかった。 15.仁川空港は日本のどの空港より広くて大きい。 16.大きな道路でバスがUターンできる。 17.ツアーの現地ガイドさんは女性が圧倒的に多い。 18.ナンタは素晴らしかった。 19.湿気が日本より少なかった。 こんな子供のような驚きが色々とありました。 初めて海外旅行した時のような感動もあり、とても良い旅行でした。 そんな楽しい旅行から帰る際、予想もしない出会いがあったのです・・・・

それは関空への機内で、偶然にも若い女性が私の隣に座ったことから始まりました。 その女性が突然、英語で私に話しかけてきました・・・ 「Are You Japanese?」 どうして英語なのかと思いましたが、その女性は韓国の方で、日本人はハングル語を殆ど知らないので、英語なら少しは通じるだろうと思ったのだそうです。 (何故か韓国の方は姿だけで日本人と識別できるようです) その女性は、金(キムさんと読む)さんという釜山の近くの出身で、ソウルの大学に通っているという女子大学生でした。 夏休みを利用して、日本ツアーの添乗員をしているそうです。 これから、大阪と東京に1週間ほど行くとのことでした。 無料で日本へ行けるし、日本語も覚えられるのでと話してくれました。

金さんは大阪が初めての為、関空で降りてから南海や地下鉄に乗ることやホテルへの道がとても心配な様子で、地図やガイドブックとにらめっこで沢山のことを一生懸命に聞いてくるのです。 この時に、彼女は日本語と英語を使い分けて聞いて来ました。 「どうやって、日本語を覚えたんですか?」 「2年間勉強しました」 「えっ、たったの2年間ですか?日本人も中学、高校で英語を習いますが、殆ど話せないですよ」 「では英語はどうやって覚えたんですか_」 「日本語と同じで勉強しました」 こんな話をしている間に、飛行機は関空に着陸するという機内アナウンスが流れました・ (ソウルと関空は1時間半程度で実際アッという間です) いよいよ関空に着陸するという時、これからのことを大変心配している顔が見えました。 (誰でも海外で初めての土地で自分が引率することになれば大変だと思います。ましてやプロではないのですから・・・)

「いいですよ、私の住んでいる2つ手前の駅ですから、一緒に帰りましょう!」 「エッー、本当ですか?・・・」 「本当にそうして頂けるなら、出国手続きが済んで、出た所で待っていてくれませんか?」

私は出国手続きを終えて、社員との解散式を行い、その場に30分程待っていました。 金さんがツアーメンバーを連れて出て来ました。 何と17名もぞろぞろ!!・・・ ここから、私は悪戦苦闘の連続でした・・・ 切符の買い方も分らない上、電車は安い料金で行きたい。切符も各自が買いたい、途中の駅で2名が知り合いに会いたいから下車したい、地下鉄ではこれまた、各自で切符を買う、荷物はあるわ、通行人の邪魔にはなるわ、人によっては明日、するっと関西で奈良に行きたいとか、日本橋の電気街に行きたいとか、たこ焼きはどこが旨いかとか、通天閣に行きたいとか、色々雑多な相談を持ちかけられたのです・・・・ 本当に即答出来ないことばかりでした・・・・

ツアーメンバーには、若い大学生風の人もいれば、私とそう変わらない年齢のご夫婦もいましたし、子供もいるといった状態でした。 その人達の頼ってくる表情を観ていると、つい、何かをしてあげたくなるのです・・・・ 今日まで自分もソウルでガイドさんに頼っていたことの反対ですので尚更でした。

地下鉄に乗っている時、非常に興味深い出来事がありました。 それは、心斎橋で乗り込んで来た若い日本人女性を韓国の人達が見たときのことです。 髪を茶色に染めて、底の高い下駄のようなサンダルを履いて、眼の周りにはごてごてと化粧品塗った10代らしき女性が二人、乗り込んできたのです。 「一体、これは何なの?何でそんな格好をしているの?何を考えているのだろう?こんなこと、日本では誰も注意しないし、許されているの?日本には自分達が理解出来ない若者がいる・・・・一体これはなんなの?△×・・・・」といった嫌悪感が露に出た表情を、特に若い大学生風の人に感じました。 本当に真剣に見ていたのです。

私には彼らの反応が分るような気がしました・・・ 韓国では若い男性に徴兵制があり、学業の途中で兵役に就かねばならず、緊張した世界に身を投じ、除隊したら改めて、学業に戻ると聞きました。恋人とも別れ、国の為に尽くすのです。 また、今でも年長者に対する尊敬の念や態度には厳しいものがあると聞きました。 勿論、自分の好きなこともあるでしょうが、それ以上に何か規範があるのだと思いました。 大きく言えば、国に目標があるのだと思います。北と南が一つの国になることもその目標かも知れません。

一方、日本では何もかも自由で何もかも手に入ります。 食べるものも、着るものも、行きたいところも、何もかも自由です。 しかし、その反面、国が目標を失い、企業も学校も個人も目標を失っていると思います。 自由と無責任が蔓延しています・・・・ 人は損得のみに生きるにしかずと思いながら、現実の日本は余りにも姿・形を追いかけ過ぎて来たように思います。 このまま推移すれば日本人は疲弊し、善悪の価値観は薄れ、損得の価値観ばかりが中心になるのではないかとも危惧する次第です。 本当に日本はこれからどうなるのでしょうか?・・・・良くなるのでしょうか・・・・

金さん一行が大阪を離れる朝、宿泊しているホテルに行ってみました。 偶然にもチェックアウトを済ませたばかりのツアーの人達が大勢いました。 私を懐かしく、嬉しそうな表情で親しく話しかけて来てくれました。 私は嬉しくなってしまったばかりか、分かれるのが、何だか淋しくなりました。 ・・・・・・・・・

私にとって、たった2泊3日の韓国旅行でしたが、「井の外を観て井の中が分る」、そんな体験となりました。 旅行の楽しみには食べ物や景色やお土産もあるでしょうが、その土地に住んでいる人と友達になれることが一番嬉しいことでなないでしょうか?・・・・・・・ 下手な言葉でも心を開き喋っていれば、相手も何かを感じてくれるのだと思います。 人間は素晴らしいものを持っているのだと思います。

この旅行のお土産は、大切な友達が出来たことです。 小さな出会いですが、育んで行きたいと思います。 お陰様で、私は韓国大好き人間になってしまいました。 その原因は景色でもなければ、食事でもありませんでした。 人間に出会ったことでした。 金さんと別れた際、こんなことを言われました。 「親切な方とお会い出来、とても感激しました・・・有難う御座いました。きっと、また、韓国に来て下さい。必ず実家に来てください。」と・・・ 私は今度行くときは家族と共に金さんに会いに行こうと思います。 近くて遠い隣国ではなく、近くて親しい友人に会いに行く為です。 韓国には今の日本が捨ててしまった何かがあるように思います。

今、私の机の中には小さな紙切れがあります。 その紙切れには金さんの住所やメールアドレスが書いてあります。 これを眺める度に、あっという間の韓国ソウルのことが頭をよぎります。 いつか必ず、また訪ねよう。金さんに必ず再会しようと・・・

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