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常識の非常識 第88号

先日、テレビで「セル生産方式」の生みの親と言われる、山田日登志氏を取り上げた番組を観ました。 その番組を観ながら私は、「常識は非常識」という言葉を思い出していました・・・ 私達は日常生活の中で、兎に角、沢山の常識に囲まれて生きています。 しかしながら、その常識は「本当に正しいのだろうか?」という、素直な愚問を忘れていると思います。 日常の中にごく自然に、ごく当たり前のこととして、誰も疑うことなく、誰もが同じように、同じことをやり続け、いつしか何の疑問も抱かないで「作業」として毎日の中で繰り返している・・・ そんなことを思い出させてくれました・・・

子供には素直な疑問があり、大人が困るほど「何故?」という質問が繰り返されます。 私達大人はいつも「何故?」と考えると、とても疲れるし、仕事も生活もテンポが悪くなって進まなくなってしまいます。 しかし、大きく言えば、この「何故?」こそ、人類の発展に不可欠なキーワードはないと思います。 私の尊敬する松下幸之助氏も、「何故?」は人に共通する進歩発展の原理原則のように話されています。

私はその番組の中で、今までのやり方で仕事をしていたいろいろな工場で働く人達の仕事振りが激変する様子を観ました・・・ そこには、忘れかけていた「何故?」が正に存在していました。

人は、今までやって来た日常や変化のない繰り返しに対し、本当は飽き飽きしているのにもかかわらず、それを変えたり改善したりすることが、手間で面倒がかかることを潜在的に知っているように思うのです。 つまり、人は「楽な方、楽な方へ動く」性向があるように思うのです。

番組内では、ベルトコンベアを取り外して以前の作業を行う方法を考えさせたり、三人の作業を一人でやるようにしたり、或いは、工場に入るなり「ムダ」を次々に指摘するシーンが出て来ていました。 私はそれを観ながら、あることを考え始めていました・・・

その「あること」とは私達の仕事です。 システム構築での工程別作業のことでした・・・ 私達の仕事は大別してSA、SE、PG、オペレータなどと呼ばれている人がおり、作業が分業化されています。 当社のように小さな会社でも、設計出来る人とプログラミングが出来る人とは工程を分けて作業を行っています。 そこには正に、「手待ち」が発生するのです。 ですがその一方で、必ずこんな反論が出てきます。 「この仕事では専門の知識や技術と経験が必要だから、スキルの低い人がやるのは無理、不可能!」といった類の言葉があります。 確かに、いきなり何もなくては出来ないことは確かです。 しかし、例え、組立ラインであろうが、情報処理であろうが、今まで一人でやっていた工程以外の仕事もやって行くということでは全く同じ筈なのです。 世の中で、ITだけが特別の仕事ではありませんし、むしろ逆の仕事ばかりが溢れていると思います。 大事なことは、「常識を疑う。疑った常識の代わりにどうしたら出来るのかを追求すること」です。一度や二度、三度でも最初は出来ないと思うのです。 しかし、ITだけが特別なのではありません。 番組では形やマニュアルにしにくい職人の世界にも、立派に通用して行くことを立証していました。 出来ないと思っていればいつまで経っても出来ないのです。 出来ると思えば、どうにかこうにかしてでも出来る方法を考え出すのです。 必要な要因は「仕事への情熱」なのだと思います。

現代は、仕事に情熱を失いかけて久しいと言える時代です。 仕事人間は毛嫌いされ、長時間労働の悪い例のように見られる時代です。 しかし、仕事が好きであれば、時間は関係ないと思います。 仕事が趣味で、どこが悪いのでしょうか?・・・ 仕事は単なる「食べる為に必要なこと」や「家族を養う為に必要なこと」だけではないのです。 そこには人としての成長や工夫や頑張りや、そして思いやりや協調性など多くの人生の価値が含まれています。 仕事に一生懸命に没頭したから家庭が壊れたと言うのであれば、世の経営者の家庭の多くは破綻している筈です。 しかし、現実はそうでしょうか?・・・ 他の人より遅くまで一生懸命に働いたから家庭が崩壊しているでしょうか?・・・ むしろその逆かも知れません。

私は世の中に「常識の非常識」が、沢山溢れているのではないかと思うようになりました。 特に、仕事で表面的にはそのように思えることでも、実は「ムダ」を行っていることが多いのではないかと思います。 人のムダほど会社にムダはありません。人が不要というのではなく、その人の仕事のやり方にムダがあるのではないかということです。

視点を変えるということは、慢性的に仕事をこなしている人達にはなかなか見えないものだと思います。 視点を変えることは、疑うことから始める、いつもこれ以上のやり方はないのかと考える、そんな純粋なものへの見方から起こるのではないでしょうか?・・・ そう思えると、大人よりも先入観のない子供の目のようなものだと思います。 今の瞬間、自分がやっている仕事を根底から見つめ直すことが、大きな変革に結び付くのだと思うのです。

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