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授業料無償 第206号

先月の8月17日金曜日に、素晴らしいビッグニュースが世界中を駆け巡りました。 アメリカのニューヨーク大学が、医学部学生全員の授業料を免除すると発表しました。 今、在籍している学生を含め、これから入学してくる医学部生も全員、今後は授業料を免除するそうです。 660億円という、巨額な寄付金で10年間以上は賄えるそうです。 中には一人で、110億円も寄付した企業成功者もおり、アメリカはいろいろ言われるけれど凄い国だなと感じ入ってしまいました。

良心というか、善の精神がまだまだ残っていることに胸を打たれました。 アメリカでは医者になろうとすると、学生の多くは一人当たり2000万円以上の借財を 背負い、そのお金の為に優秀な学生が医者になる道を諦めたりすることも多いそうです。 日本も同じようなもので、医者になる多くの学生は医者の子供が多く、所謂、お金持ちの 家庭の子供が多いのと同じです。

しかし、日本にも幕末時代に岡山の足守藩という確か五万石の小藩出身者で蘭学医であっ た緒方洪庵が、大阪の淀屋橋に開いた蘭学塾の「適塾」には、そんな西洋医になりたい人 へ広く門戸を開いていたことと似ています。 商人でも、農民でも、およそ医学を志したい人へ、広く医学への塾を開いていたのが緒方 洪庵でした。

お金のない人からの月謝もついつい滞るので、貧乏だった緒方家はいつも厳しい台所事情 だったようです。 小さな自宅には数十名の塾生と子沢山家族で、いつもやり繰りが大変だったようです。

そんな適塾でしたが、洪庵の医者になる人への適性というか、心構えに、適塾を訪れた時 に強く心を打たれたことを憶えています。 医者になろうとする人への戒めは、正にこのニューヨーク大学の理念と通じるものがあり、 「地位や名声やお金や美衣美食に溺れることなく、ただ、ただ、一心に、人の命を救いたいと いう志にこそ、医者になる人に必要だ」と書かれてありました。

洪庵のこの理念は、医学塾でありながら、人材を育てることにも繋がっていました。 例えば、塾頭であった福沢諭吉はこのようなことを後年、述懐しています。 「生涯にあれほど勉強したことは後にも先にもなかった。いつ寝て、いつ起きていたか分か らない程だった」と。 また、先生は医学を教えていたけれど、それ以上に人間というものについて、多くのことを 教えられていたと。

このことは、経営者にも通じるものがあるようで、それが何であるかを考えさせられるもの です。 何の為に経営者になったのか、なるのか、という自問です。 お金儲けがしたいのか、それとも、社会や世間に貢献したいものがあるのかという問いです。

お金も必要ですが、それ以上に社会や困っている人達へ貢献することが重要なのではない かということです。 人それぞれにいろいろな想いがあるでしょうでが、それが企業人たる私にも根底からいつ も忘れてはいけない心構えだと思うのです。

洪庵は身分には関係なく、広く塾生を集め、月謝も困っている塾生からは取り立てもせず、 この為、家の中はいつも困窮していたのです。 蘭学医だったので医学を教えることは当然ですが、それ以上に人の生き方や心構えなどを むしろ教えていたと思います。

この為、この塾からは優秀な人材が数多く育ち、先ほどの福沢諭吉は教育者となり、大村 益次郎は明治陸軍の父と呼ばれる人物になり、しかも、死んだら先生の近くに埋めて欲し いと望み、後年、戦いの傷がもとで亡くなった後、切断された右足は洪庵の墓の近くに実際、埋葬されています。

また、こんな話もあります。 この塾にはヅーフ辞書という、高価なオランダ語と日本語の翻訳辞書があり、塾生が数十人 もいたのにたった一部しかなかった為、辞書を使える部屋には一晩中、灯りが絶えることが なかったそうです。

ちなみに、この辞書は大変高価で、今なら数十万もするそうで、58冊から成っていたようです。 あの勝海舟も、若いとき、家が貧乏だったので、人からお金を借りてその本を本屋から借り て、一年かけて二部も写し、貧しい家計も助けたそうです。 一年で二部を書き写すのです。 今では考えられない労力です。 消しゴムもないし、コピー機もない時代です。 夜なべしての作業です。 本当に昔の人は偉かったと思います。 この辞書が一冊しかなかったことも、人材を作ったことに繋がったと思います。

洪庵は亡くなった後も多くの弟子達に慕われ、その有志が今の大阪大学医学部創設へ動き ました。 その結果、その洪庵が創設した塾である「適塾」は、今でも大阪大学医学部の管理下にあり ます。 また、案外知られていない話ですが、洪庵は幕末の最後の将軍である、徳川慶喜の典医に もなっており、請われて江戸へ赴任していた時に喀血して亡くなっています。

さて、ニューヨーク大学の話ですが、そんな人の命を救う医学の道へ、世界にもない素晴ら しい決断をしたニュースで、私に洪庵を思い出させてくれました。 660億円が確保できたということです。

ここが凄いです。 なんだかんだと言っても、ここがアメリカの良心だと思うのです。 起業や個人で成功した人が、社会へ還元をする訳です・・・素晴らしいと思います。 実際に660億円の内の6分の1の110億円を寄付した、ある大手企業の創業者もいたのです。

アメリカでは医学部を卒業した医者が、多額の借財を抱えているそうで一人当たり2000 万円以上の借金を抱えているそうで、このため医学生になりたいという人材も減っている そうです。 そういえば、日本でも高級官僚の子弟が入学試験に便宜を図って貰った事件がありましたが、 これもお金絡みの話です。

私には、不思議な体験があります。 かつて私は、永い間、約30年間、タバコを吸っていました。 が、18年前に一日で禁煙が出来ました・・・

禁煙というより、脱煙が相応しいと思いますが、そのキッカケも一冊のお医者さんが書かれ た本でした。 ラジオ番組で紹介されていた本でしたが、聞いたことがない珍しい著者名と本のタイトルに 惹かれて買い求めました。

将基面誠さんという方が書かれた、「無医村に花は微笑む」という何とも奇妙な本でした。 よくある禁煙の薦めみたいな本とは違い、その著者がどうして医者になったかが書かれてあ る本でした。

私はこの本に非常に心を打たれ、私の生涯の書の一冊になっています。 先生は、何故自分が医者になったのか、何故、無医村なのか、何故、花が関係あるのか、 読んで貰えれば分かります。 私は電車の中で涙が止まらず、泣きながら読んだことを憶えています。 この本のお陰で、読み終えたその日を持って、永い間、禁煙が出来なかったタバコとおさら ば出来ました。

不思議ですが、人は1心を打たれると、何か普段できないことでも出来るようです。 感動や心に残る出来事は人を変える力を持っています。 しかし、心が素直でないと、なかなか変われないことも事実です。 素直でなければ心には聞こえて来ません。

さて、今月は何を書いているのか、どこへ向かっているのか方向が定まりませんが、兎に角、このニューヨーク大学の話には心を打たれました。 聞いたことがないし、そんな素晴らしいことを実現できるアメリカの良心も凄い。 私も何か小さなことでも貢献出来たらいいなあと思いますが、まだまだ何も出来そうにありません。小さなことならやって行けると思うので、そこから始めて行きます。

人の心は素晴らしいものです。 このような話は、人に希望や夢ややる気を与えます。 私は小さな会社の経営者ですが、私には私が出来る小さな夢もあるので、早速、何か社内で 考えて始めます。

医学の道、経営者の道、政治の道、先生の道、・・・いろいろな道が人の前にはあります。 決して諦めることなく、自らの道を自分達で拓くことが出来るので、このニューヨーク大学の話のように夢を諦めずに、実現できることを目指して、これからも命ある限り、目指して実現して生きたいと思います。 強く願い、片時も忘れず、その方向へ努力していれば、いつか必ず実現すると信じて、命ある限り頑張って行こうと改めて思いました。

また、一度しか行ったことがないニューヨークにも、もう一度行ってみたいと思います。 ニューヨークは危ない地域や危険に遭遇する割合も他の都市よりも多いですが、それでも、 凄い街です。 一日中、救急車やパトカーのサイレンが聞こえます。 昼も夜も関係なくです。 ホテルの廊下には銃を下げたガードマンが巡回していますし、およそ日本では考えられない 毎日です。 人々の歩くスピードも速いし、アメリカ中からのお上りさんも多いし、英語も訛りみたいな話方があって話すスピードも早い。 ごみも多いし、空き缶を持った黒人も多いし、お金持ちと貧乏人が混在して生きている街です。

しかし、半面、クリスマスイブに観たロックフェラーセンター前の聖歌隊の姿も忘れられません。 セントラルパークの大きさやその都会の中の異次元空間、近代美術館で観たモネの睡蓮の 圧倒さ、ブロードウェイの演劇や芝居、まるで夢みたいな場所でした・・・ もう一度観たいものです。 リバティ島にある自由の女神にも登りました。 やはり、アメリカは多様性の国だと私は思います。

こんなことが私のまだやってみたいことなのです。 人間は素晴らしいと思います。 そして、まだまだ知らない多様な国々や人々もいることが世界なんだと思います。 世界は私達を待っています!

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