IT技術者 第66号
- 株式会社ビジョンクリエイト
- 2007年3月1日
- 読了時間: 6分
更新日:2022年6月21日
現代は情報化社会と言われています。生活を取り巻く数多くの場面で情報システムや情報処理機器の恩恵を受けているのは周知の通りです。 ところが、工業化社会から情報化社会に突入してから久しいですが、日本を支える基幹産業は今でも製造業が中心で、自動車や鉄鋼、或いは重工業を中心に部品メーカーを含めた産業が多いのも事実です。また、企業間でのM&Aによるメガ化も起こっています。 果たして日本の産業はこれからどうなって行くのでしょうか?・・・
日本に比べ工業化社会で遅れをとっていた中国やインド、或いはベトナムやアジア諸国は優秀な人材を情報産業へ投入してIT立国を目指しています。 インドはこれにより急成長を遂げつつありますし、他産業への波及効果も起きています。 中国でもインドでも海外留学も経験しているような優秀な人材が集まってIT産業で働いています。それに比べ相対的に日本の情報産業は遅れをとり始めていると言っても過言ではないと思うのです。
何故、日本ではIT産業がアジア諸国に追いつかれ追い越される状況になりつつあるのかと考えてみると、IT産業の成長発展過程に問題があるのではないかと推測します。 日本ではIT産業の勃興期にはFM事業(ファシリティ・マネージメント)という、大企業のコンピュータ室のオペレーションを労働問題の視点から代行する運用のお手伝いから出発した経緯が中心だったからではないでしょうか。 分かりやすく言えば、お手伝いさん的作業から出発したので相手の家(企業先)に行って、そこで仕事をする事業が成立して来たことが元々の原因だと思います。 お手伝いさんですから、どちらかというと知的集約ではなく労働集約型的な色彩が強く、そのまま時間が経過して現在のような事業の姿になって来たのではないでしょうか・・・ 一方、中国やインドにはそんな大企業自身が少なかったこともあり、日本のような労働集約的な事業形態は当初から発生することがなく、先に需要が一挙に押し寄せて来たというのが実情ではなかったでしょうか。
ソフトウェアの開発は人が中心で行われます。 ここに列挙した方は技術や知識を盾にどこか高慢で会社や顧客の存在より自己の存在が中心の印象を受けます。 確かにコンピュータに何かをさせようと思えば、それなりの技術や知識は必要です。 しかし、技術や知識が全てでもないと思います。 顧客が知らなければ人として接する常識や社会性があって当然だと思います。 しかし、IT技術者の中には挨拶が嫌いだとか、人と話すのが嫌だとか、目線を合わすことすら避けるような技術者も少数ながらいます。
日本が情報化社会で通用する人材を確保するには、技術や知識の教育も大事ですが、一方で人間育成を再考する時期に差し掛かっているのではないかと思います。 労働集約的な業界観を払拭し、知価創造的な価値観を実現するには経営者は勿論のこと、そこで働く技術者にも立派に社会人として通用する人材確保が求められていると思います。
それに、長時間労働など時間というものについての考え方も見直す時期だと思います。 時間は何人にも平等に与えられます。男女であろうが、老若であろうが、年齢が違おうが、一日は二十四時間ですし、一時間は六十分です。 これほどかけがえのない貴重な財産である時間なのに、IT業界では時間で解決しようと場面が余りにも日常的に見かけられます。つまり、残業をしたり、休みに出て来たりということです。 時間を使う前に他に方法はないかとか、時間を省いて出来る方法はないかとか、或いは優先順位を変更してやれないかとか、他に考えて解決できる手段の検討が必要だと思います。 問題解決を時間で解決するのは最後の手段ではないでしょうか・・・ 時間の他に残されたとっておきの解決手段はもうないのです。 その代わり、知恵や工夫がなければ解決は出来ません。 IT技術者であればあるほど、この知恵や工夫は大事な付加価値だと思います。 ソフトウェアの価値とは、時間ではなく知恵や工夫そのものではないでしょうか。 ソフトウェア自体、目に見えず、形がなく、使ってみるまで良いものかそうか分からないものはありません。知恵や工夫の塊そのものなのです。
世界で最初にインスタントラーメンを発明した安藤百福さん(故人)がこんなことを言われています。 「ひらめきは執念から生まれる」 「なにごとによらず、自分の周囲にいつも好奇の目を向けるのを忘れてはならない。消費者のニーズや時代を読むヒントは日常生活のいたる所に転がっているではないか」 正に、これらの言葉にはその人の人生で経験した知恵や工夫が刻まれているのです。 それが知恵や工夫であり、時間についても全く同じことが言えるのではないかと考えます。
時間ほど貴重で大切な、生命を維持している共通の資源はありません。 だから簡単に使ってしまってはならないと思います。 知恵や工夫はその時間を少しでも効率的に有意義に使える手段だと思います。 事業も全く同じであり、働く人についても同じことが言えると思います。 全ては時間の中で動いています。 その時間を強く意識して自分の生命の一部として実感している人は、生命観そのものに依存した視点で生きる目標や目的が持てる人なのだと思います。 そこまで出来なくても社会のどこかで何かの役に立つことが少しでも出来たらと思うことが高い志になって行くのだと思うのです。
このように思うと、IT技術者も大義名分を持って働くことが大きなエネルギーや使命感を生み出し、社会や世の中に貢献できる成果を生み出すことが出来るようになるのではないかと思います。 情報化社会で働く一人間として、より多くの方々と出会い、より良き人生になるような目標や目的を持つことがとても大切な時代になっていると思います。 情報化社会はどうなって行くのか明確には分かりませんが、少なくとも人類にもたらす影響はいまだかつて経験したことがないほど計り知れない大きさであることは間違いありません。 人は自身のためのエネルギーよりも、人に喜んで貰える、世の中や社会に貢献できる方のエネルギーがはるかに巨大で強いばかりか、湧き出る量も大きいものだと思います。 それが使命感ということなのかも知れません。
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