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朗読家 第249号

今では一昔と言われる時代になるでしょうが、私が小さい頃に徳川夢声さんという方がいました。司会や朗読を生業としていた方で、元々は弁士と言われる仕事をされていました。

どのような仕事かと言いますと、私も小さな頃に1度だけ時代劇で石川五右衛門らしき主人公がガマガエルに変身する白黒の無声映画(音声のない映画)を見た記憶があるのですが、町の公民館でその映写会があり、画面は色黒で、しかもスクリーン上には雨粒のような白黒の筋や点があちこちに散らばって見える画質の悪いものでした。

音声がない上に白黒の画質の悪い映像でしたが、テレビの放映が始まる前の頃で、割とはっきり記憶に残っています・・・


弁士とはそんな無声映画の上映で、スクリーンの動きに沿って、セリフや情景などの話を声を出して話す、今でいうオンラインリアルタイムな職業です。

徳川夢声さんは弁士で有名だったようです。宮本武蔵といえば、作家の吉川英治さんが宮本武蔵を書いて大好評を博し、大衆文学の走りになった方です。私も吉川英治さんが書いた三国志を2,3回読み、日本の歴史物と違うスケールの大きさに魅了されたものです。

その上、使われている言葉も読みやすく、文面も分かりやすい作家で、大衆作家と言われていたようです。吉川英治賞なる賞にもなっている高名な作家ですが、本人は履歴書を書くのが嫌だったと何かの本で読んだことがあります。その理由は学歴欄が1行で終わるからだったそうです。この話は今でも記憶に残っています。

多感な頃に三国志、新・平家物語などを読んだことは私にとって大きな意義があったように思います。


さて、徳川夢声さんですが、その姿はザンバラ髪で、声は少しかすれ気味で、渋く太めの声で文字を味わい深く朗読される方でした。

正に、声以上に人格を感じさせる方だったと思います。その独特の語り方は聞いている内に

語られている物語の世界に引きずり込まれる程でした。                                                                                                                                                                                        文章をアナウンサーが読むようなこととは違い、言葉が生きて出て来る、そこに居そうな気配を生み出し、今にも動き出すように感じたものです。

ラジオしかない頃は音しかないので、むしろ聞き手の創造力や感性が膨らむ媒体でした。

テレビとは異なり、聞き手の感性が大きく反応していました。今、テレビは私には余り縁が

ない媒体になってしまいました。どこのチャンネルも似たり寄ったりの番組で、似たり寄ったりの出演者や芸能人になってしまい、魅力がありません。

テレビは変革すべき時代になっています。

多様化した情報媒体の中では魅力も力も感じなくなっています・・・


さて、語り手という仕事は、その人の生き様や年輪や経験がその語りの味付けを醸し出していると感じます。

例えると、葉っぱに残る露の美しさや、植物や木々の間を通りゆく風の音、かすかに感じる息づかい、人が持つ言葉の間など人が本来持っている優しさや厳しさ、そして心の中身が見えて来るように感じたものです。

うまく表現が出来ませんが、言葉が生きているのです・・・

どこか、落語家や講釈師や浪曲家などにも共通する言葉の味わいがあるように感じます。

言葉を伝えることは実に不思議なものだと改めて思います。

同じ言葉でも人により大きく生きて来るのです。

そういう人はなかなか居ません。


朗読家ではありませんが、もう一人、城達也さんというラジオのナレーションで有名な方がいました。

日本航空が提供する音楽番組で「ジェットストリーム」という東京のラジオ番組の名ナレーターで、永年に渡り、たった独りでその番組のナレーションを務められた凄い人です。

日本が高度成長期の頃、海外の街や文化などを音楽とナレーションで紹介する深夜のラジオ番組は当時の日本社会の成長期と重なり、リスナーを夢の世界へ身近に運んでくれました。

番組を聴いていたリスナーの多くが海外に憧れ、いつかは自分もと夢を膨らませてくれる番組でした。

27年間、たった一人でナレーションを担当していた城達也さんは余りにも傑出していました。私も若かりし頃、深夜にラジオから流れて来る美しいメロディーを楽しみに夜更かしをしたことを懐かしく思い出します・・・


この番組が始まると、ジェット機のエンジン音と共にパイロットと管制官の交信に交じって、こんな城さんのナレーションが始まります・・・


「遠い地平線が消えて 深々とした夜の闇に心を休める時 遥か雲海の上を音もなく流れ去る気流は たゆみない宇宙の営みを告げています。満点の星をいただく果てしない光の海を 豊かに流れゆく風に 心を開けば きらめく星座の物語も聞こえてくる 夜の静寂(しじま)のなんと饒舌なことでしょうか・・・

光と影の境に消えていった はるかな地平線も瞼に浮かんで参ります・・・

日本航空があなたにお送りする 音楽の定期便 ジェットストリーム・・・

皆様の夜間飛行のお供を致しますパイロットは、わたくし、城達也です・・・」 


正直、このナレーションは今ですら洒落ていて格好いいなあと思います。

誰にでも似合うセリフではありません。

城達也さんだからこそ似合ったのだと思います。


そして、番組の最後にこう囁きます・・・

「夜間飛行のジェット機の翼に点滅するランプは 遠ざかるにつれ 次第に星のまたたきと区別がつかなくなります。お送りしておりますこの音楽が 美しくあなたの夢に溶け込んでいきますように・・・ 

日本航空がお送りしました音楽の定期便 ジェットストリーム。

夜間飛行のお供をいたしましたパイロットは わたくし 城達也でした・・・」と。

これらのセリフには本当にしびれました。キザな言葉なのに城さんの語りにはそんな気配が感じ取れないのでした。

病気でこの世を去ってから永いのですが、リスナーの心に残る方でした・・・


JET STREAMのURL例です。

また、ANA編というものもあって、到着前のCAさんのアナウンスが素晴らしく印象に残っています。そのURLは以下の通りです。最後あたりにそのナレーションはあります。

とても格好いいCAさんです。


また、朗読家の中には日本人ながら英語の朗読をされている方もいらっしゃいます。

その方は青谷裕子さんという方です。オフィシャルホームページはこちらです。https://yukoaotani.jp/


更に続けて、青森出身のシャンソン歌手の秋田漣さんの「ふるさとの山」も心に沁みる、とても素晴らしい朗読と歌です。秋田さんはフランスに行ったこともなく、独学で学んだシャンソンを歌っています。

一度、生で聞いたことがありますが、言葉に言えない程素晴らしいでした。是非、聴いてみて下さい。お勧めです。


また、こんな協会もあります。日本朗読検定協会の朗読検定です。

素晴らしい言葉、生きている言葉、感動させる言葉、泣かせる言葉、・・全部、人が語るものです。

是非、美味しい言葉をお聴き下さい。

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