一般に情報セキュリティ強化はユーザビリティ(利用品質・システムの使いやすさ)と背反する関係にあると言われます。
利用システムの安全性を高めるため、認証などを厳密にすれば、そのぶんだけ利用者に複雑な手順を強いることになり、負担が増します。
具体的には、業務システムごとに異なるID/パスワードを設定させられ、そのパスワードも定期的に変更しないといけない……といった問題点があります。
また、またクレジットカードやポイントカードなどに関しても、用途や地域別に複数枚を持たないとダメとか、紛失時には再発行・無効化の手間が生じます。これは大変面倒です。
そんな中、注目を浴びているのが生体認証です。
指紋・光彩・静脈・声・耳音響など、人体の様々な要素を使った認証があります。
その中で最も直感的に分かりやすいのはやはり「顔認証」ではないでしょうか。
これまでもシステムやアプリにログインする際などに使われてきましたが、最近ではスマートフォンでの応用が進んでおり、親しみやすい技術になってきました。
「顔認証」は、顔の形や目鼻口の位置など本人の特徴をもとに画像認識技術を用いて識別します。
指紋認証などに比べ、登録・認証時の心理的な抵抗感も少ないとされますが、以前は髪形など経年による風貌変化によって本人を識別しにくいという問題も指摘されていました。
近年はカメラの精度・画像認識技術・認証エンジンなどの向上などでそういった問題も解消されつつあります。
「顔認証」が注目される背景として、テロ犯罪防止など社会のセキュリティ対策に対応しやすい点があります。
「顔認証」では、PCのログオンや入退室などで、あらかじめ登録した対象者がカメラに顔を向けて認証する「積極的認証」と、対象者が気付かないうちに施設のゲートなどに設置したカメラを利用して顔認証を行う「非積極的認証」があります。
2019年、2020年と日本では世界的なスポーツイベントが開かれ、海外から多数の外国人が日本を訪れます。
不特定多数の人が往来する駅や空港などの群衆の中から、国際テロ犯罪の指名手配犯を探すといった「非積極的認証」の用途にも「顔認証」技術が有効です。
もちろん、犯罪者を見つけるだけではなく、競技場の中から「顔認証」でVIPを探し出し、特別な「おもてなし」をするといったことも可能となります。
顔認証の仕組みと用途
群衆の中から目的の対象者を探し出すためには、複数の人の「顔認証」処理をリアルタイムに行った上での高い認証精度が必要です。
その仕組みとしては、データベースに事前登録された顔画像とカメラで撮影した顔が一致した場合にアラートで通知を行うという流れです。
では実際にどんな場面で使われているかというと、例えば、海外のホテルではリアルタイム「顔認証」ソフトウェアを用いることで、要注意人物のホテルへの入館検知を行うことができています。
さらに、VIPを検知して顧客サービスを向上するなど、セキュリティ対策と顧客サービス向上の2つの用途で活用されています。
「顔認証」技術を活用してPC利用時のセキュリティを強化することも可能です。
「顔認証」PCセキュリティソフトウェアは、PC内蔵カメラまたは外付けのWebカメラに顔を向けるだけで認証されるログオン機能のほか、本人の離席時や、未登録ユーザーが着席した場合に、自動で画面をロックする常時監視機能を備えることができます。
ID、パスワードだけでは、いつ、だれがPCを使っていたか特定するのは困難ですが、「顔認証」は個人単位で認証でき、確実な利用履歴を残せるといったメリットがあります。
介護施設の利用者の外出(徘徊など)を職員に知らせる、オフィスの入退室を管理する、ホテルなどでリピーター顧客の来店をスタッフに知らせて顧客サービスを向上するなど、様々な用途にも利用できます。
また、集計データを分析することで、カメラ映像から自動的に人物の年齢や性別を推定し、「顔認証」技術をマーケティング活動に活用することも可能となります。
あるコンビニエンスストアのチェーンでは、店舗管理端末のカメラにスタッフが顔を向けてログオンするようにしたことで、セキュリティと利便性の向上に役立てています。
またある銀行では、営業担当者や融資担当者が利用するタブレットのログオンに顔認証を採用しました。
銀行員はタブレットの内蔵カメラに顔を向けるだけで簡単にログオンでき、訪問先でセキュリティを確保しながら住宅ローンのシミュレーションを行うなど、顧客サービスの向上につなげています。
大人数が集まるコンサートなどのイベントで顔認証による本人確認を行う事例や、年間パス契約者向けに入場ゲートで顔認証を採用し、「顔パス」を実現するテーマパークもあります。
「顔認証・顔パス」とプライバシー問題
今後、高精度な動画顔認証技術の進展とともに適用範囲が広がり、さらなる利便性の向上が期待されています。
高速に対象人物を見つけられる動画認証技術は公共の場での安全対策をはじめ、文教(教室・試験会場の本人確認)、金融機関・小売業(スマホ・店舗での顔決済)、工場(入退場管理)など様々な分野への適用が考えられます。
企業が「顔認証」の導入を検討する際、従来のパスワード認証に代わってPCのログオンや入退室管理などに利用するのであれば、従業員が対象なので、本人の意思で認証する「積極認証」のため導入の敷居は低いでしょう。
一方、商業ビルなどで「顔認証」技術を用いて人の流れを分析することも可能ですが、第三者を対象に対象者が意識せずに認証される「非積極認証」の場合は、色々と留意すべき点があります。
例えばマーケティングや防犯目的とはいえ、本人に知らせずにカメラで撮影するというプライバシーの問題はどう考えるべきでしょうか。
防犯目的で導入したが、間違って警察に通報してしまい、えん罪など人権侵害に及ぶことも考えられます。
今後、「顔認証」技術を活用して安全・安心でき豊かな社会をつくるためにも、プライバシーの保護を可能にする技術開発や、「顔認証」の運用ルールの取り決めなど法的な整備についても検討する必要があるでしょう。
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