生命保険会社において、健康になると保険料を割り引くとか、割り戻しする「健康増進型保険」が広がりつつあります。「人生100年時代」を迎える中、個人はより長く健康でありたい、企業は健康保険組合の財政を健全化すると共に労働生産性向上に向け社員の 健康問題を予防重視で解決したいという要望が高まっています。
これまではどうなっていたか:
旧来の考え方はこうでした。生命保険は、多くの人々が危険度に応じた保険料を出しあって公平に保障し合う相互扶助制度です。従って、すべての人が同じ条件で契約ができるわけではありませんでした。なぜなら、健康状態の悪い人や、危険度の高い職業についている人は、一般の人よりも入院や死亡する危険度が高いからです。保険金の支払いが増えて保険制度の健全な運営ができなくなる可能性があり、一般の人と同じ条件で契約すると、契約者間の公平が保たれなくなります。
そこで生命保険会社は、生命保険の申し込みに対して危険度の大きさを評価し、契約を承諾するか否かを決めてきました。危険選択は、(1)身体上(健康かどうか)、(2)環境上(危険な職業・職場かどうか)、(3)道徳上の危険(モラルリスクはないか)の三面から評価し、危険度が高いと保険料割り増し・保険金削減・謝絶(保険加入をお断りする)といった施策でした。
今まで保険会社は加入するまでの勧誘には熱心でも加入後のフォローは長年怠ってきました。ようやく根付いた契約内容確認活動も、顧客のためではなく、保険会社都合の保全(住所確認とか))や転換営業目的が主流だったと考えます。
最近の出来事:
しかし、上記のような要望・現状を踏まえ、生命保険各社は保険加入者の健康改善を本格展開することで健康寿命延伸に貢献する方向へ逆転の発想を打ち出してきました。少子高齢化に伴い加入者獲得競争が激化する中で保険料収入が頭打ちになっている一方、健康なとき危険選択を切り抜けて加入した高齢加入者への支払い(給付)が年々増加傾向になり、保険会社の利益を圧迫します。そこで保険加入者に対する健康増進施策を強化することで加入者も助かり、保険会社も経営が安定するといった方向へ舵をきることが必須になります。
SOMPOひまわり生命保険は「原則すべての個人保険商品を健康増進型に切り替える」と宣言しました。今後健康増進型ではない死亡保険や医療保険の販売を順次停止していき、新規契約のほぼすべてを健康増進型に切り替える計画です。
設定した目標に応じた血圧や体重などの改善で保険料を引き下げ、過去の加入期間に遡って保険料の差額も割り戻しします。喫煙者が禁煙し、BMI(体格指数、18~27)や血圧(最高140未満、最低90未満)を満たせば、最大3割引きします。契約日に遡って還付金がもらえます。予防治療を始めた場合などに一時金を支給する仕組みもあります。例えば同社が扱う糖尿病患者向けの医療保険では、定期的に健康診断数値を提出し対象数値が一定を保つか改善すると、1年に1カ月分の保険料を一時金として還付します。
このような全面転換に踏み切ったのは、きめ細かく契約者の健康状態を把握することができるようになったことも背景にあるようです。ITを活用し健康支援サービスを提供できるような体制づくりと契約者の健康状態をスコア化、健康維持を序言するスマホアプリを投入する計画です。
健康増進型保険に注力する保険会社は確実に増えます。先行した住友生命の商品「バイタリティー」はテレビCMも打ち、拡販しています。主力保険に付帯する「特約」として、健康増進サービスを提供しています。健康度合いに応じて保険料を変動させる仕組みです。加入者を健康にする相談力を強化することで、商品価値を高め差別化していく考えです。
大手生保では第一生命・明治安田生命も健康増進型保険を提供し、日本生命は健康増進事業会社をいち早く設立し、この分野を強化していくと見られます。
IT企業には追い風が吹く:
このような流れで勝者は誰になるでしょうか。一時的にはネットに強い中堅会社が先行の利益を得るでしょう。しかし、この手の取組で一番有利になる最大の条件は顧客基盤規模だと考えます。より多くの顧客と契約を保有し、そのデータを分析した結果見えてくる顧客の将来像を描けるところ・・・結局はデータ分析とIT投資に豊富な資金をつぎ込むことができる大手生保が巻き返していくでしょう。
すると、こうした大手でITに対する巨額投資と、従来とは比較にならないほどの大規模・短納期・迅速開発に対応するため、IT人材の囲い込みが起きると予想されます。この領域に強いIT企業はこれから大型案件拡大で業績を伸ばしていくと考えます。
以上
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