量子コンピュータは「量子力学」の原理を応用したコンピュータです。
コンピュータは通常は0と1を情報処理しますが、量子コンピュータは0と1のどちらでもある「重ね合わせ」と呼ぶ状態を使うため、処理能力が飛躍的に高まります。
世界最速のスーパーコンピュータで数千年かかる計算問題を、数分で解けるとされています。そのため、最適な物流ルートの探索や創薬の効率化など実用化への期待が高まっているのです。
計算問題には、一見簡単そうですが実は計算量がとても多く、普通のコンピュータでは解くのが難しいものがあります。
その一例が「巡回セールスマン問題」です。
セールスマンがいくつかの都市を1度ずつ訪問して出発点に戻るとき、移動距離が最小になる経路を求めるのですが、15都市になるとルートの数は1兆を超えます。
すでに実用化されている量子コンピュータは、このような「組み合わせ最適化」と呼ばれるタイプの問題を、とても速いスピードで計算して解くことができるのが最大の特徴です。
組み合わせ最適化の仲間といえる問題や、従来のコンピュータで速く解くことが難しい問題は世の中にはたくさんあり、高速で解くメリットは大きいとされます。
従来のコンピュータは「0」と「1」のふたつの数字を使う2進法で計算します。
電流のスイッチがたくさん集まった半導体チップを内蔵し、電流を流した状態を1、流れない状態を0と決めておいて計算をします。
スーパーコンピュータは半導体の動作を速くしたりチップの数を増やしたりして、計算スピードを上げるのです。この0と1の状態はデータの最小単位「ビット」といいます。
これに対して、量子コンピュータは「量子ビット」というものを使います。
量子ビットは、ひとつのビットが0と1の状態を共存させることができるのです。
ミクロの世界のことなので直感的には理解できないと思いますが、この「状態の重ね合わせ」によって、同時並行で非常に速く計算ができるのです。
量子コンピュータと呼ばれているものは、大きく2つのタイプがあります。
すでに実用化されているのは「量子アニーリング方式」で、カナダのベンチャー企業が2011年に発表しました。
冒頭で説明したように、組み合わせ最適化問題を得意としており、米ロッキード・マーチンや米グーグルといった企業や研究機関が実際に導入しています。
一方、1980年代から今も研究が続いているのが「量子ゲート方式」です。
量子ビットの重ね合わせ状態を維持する技術が難しいため実用化に至ってませんが、もし完成すれば、あらゆる種類の計算を汎用的にこなせるといわれています。
世界では量子ゲート方式の研究開発が加速していて、米IBMやグーグルなど様々な企業や大学が成果を発表し始めています。
日本でも2017年11月、NTTや国立情報学研究所が国産初の量子コンピュータが完成したと発表しました。
先ほど説明した2つのタイプとはまた少し違う方式で、組み合わせ最適化問題の解を高速で求めるマシンといえます。
実用化されている量子アニーリング方式によって物流や創薬などで応用が進むでしょう。
また量子コンピュータは人工知能(AI)に学習させる計算が得意です。
AIの発達で、人間の役割や社会の姿が大きく変わると考えられます。
汎用的な計算ができる量子コンピュータがスーパーコンピュータに取って代わることも考えられます。
ただ、必ずしも良いことばかりではありません。
例えば、現在のコンピュータでは事実上不可能とされるインターネットの暗号解読が、簡単にできると懸念されています。
暗号・センサーへの応用
一つの粒子が同時に異なる状態を取ったり、遠く離れた粒子同士が影響し合ったり――。
ミクロな世界では、私たちが生活している通常の世界では考えられない現象が起きています。
膨大な計算を一瞬でこなす量子コンピュータは、こうした量子の不思議な現象を利用して、世の中に役立つものを作ろうという研究の一つです。
盗聴やハッキングが不可能とされる「量子暗号」や、従来難しかった細胞内などの状態を詳細に観測できる「量子センサー」も注目されています。
コンピュータにとどまらず、こうした量子がらみの技術が今後表舞台に出てくる日は近いでしょう。
こうした背景をにらみ、大手金融機関が次世代技術の量子コンピュータの活用に動いています。
将来実用化されれば決済情報のやり取りで使う暗号技術が解読されるリスクがあり、自ら研究して備える戦略のようです。
最適な資産運用や株価予測などでも飛躍的に精度が高まる可能性があります。
膨大なデータ処理が求められる時代に、先端技術を取り込んで金融技術高度化を図る模様で、量子コンピュータの先導役になるとみられます。
IT関係者も、量子コンピュータの適用範囲拡大に適応し、その発展には注目しておく必要があります。
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