「アマゾン効果」とは、ITやクラウドの進展が進み、ネット販売のあおりで小売店が値下げを迫られる現象を指す。ネット通販最大手の米アマゾン・ドット・コムにちなみ「アマゾン効果」と呼ばれる。政府がいくら物価浮揚策を講じても物価上昇を抑えている要因として指摘され始めている。
日本でもアマゾンを利用したことのない一般消費者は少ないだろう。アマゾンは現在、マクロ経済的にも大きな変化をもたらしている。
いま日本でも米国でもインフレ(物価上昇)が起きない現象が起きている。これは一見するとありがたいことのようにも思えるが、デフレ(物価下落)の一歩手前ともいえる。そこで日銀は懸命になって、インフレ率を2%以上に押し上げようとしている。そのために超金融緩和を行い、長期国債を買い支え、金利が上がらないようにしている。しかし、それでも物価が上がらず困っている状況である。
では、なぜ政府の努力にもかかわらず、物価が思った通りに上がらないのか? 家電量販店などでは、価格競争が激化しており、「他社より一円でも商品が高ければお知らせください」という看板を掲げているのを見た方も多いだろう。こういった売り方をグローバルで展開しているのがアマゾンである。同社は、その膨大な小売量ゆえに、地域社会の特徴や小売りサービスを飲み込みつつ、世界レベルで価格を平準化している。
そうなるとアマゾンと競争する企業は、同社に負けないために価格を下げようという連鎖が働く。そこで日本だけでなく、米国でも一般物価が上がらないという現象になる。実際にFRBも日銀と同様に、物価を上げられずに困惑しており、2回の利上げを実施した。しかし今年はもう利上げできない状況に追い込まれている。金融緩和を徐々に引き締めたいのに、その裏づけとなる物価上昇が起きないのである。
このように、アマゾンなどのネット社会が持つモノの販売力が、一般物価の上昇を抑えていると感じさせるのが「アマゾン効果」である。
「アマゾン効果」は、マクロ経済に大きなインパクトがあり、将来的な経済動向にも影響を与える。実店舗には商品を並べるコストがかかる。ところがECでは何百、何千と商品を並べられる。種類や色などの選択肢が圧倒的に多い。しかも世界中どこでも同じ値段で買える。つまりネットやITやクラウド社会の進化によって、”一物一価”の状況が生まれてしまったようである。
この「アマゾン効果」により、米国では小売業の崩壊が始まっている。J.C.ペニーやメイシーズ、シアーズといった大手の百貨店、小売店が軒並み100店舗以上も閉店したことも連日のように報道されている。同様の現象が日本のデパートでも起き始めている。たとえば伊勢丹と三越の経営統合などは、昔ならば想像もつかなかった。
また米国では、デパートのみならず、スーパーマーケットまでもアマゾン化してきたといえる。いまアマゾンは、生鮮食料品の分野にも触手を広げようとしている。 アマゾンはスーパーマーケット大手のホールフーズを買収するという戦略に出た。生鮮食品は、宅配便だと受け取りに困ることがある。そこで同社は実店舗を手に入れ、生鮮食料品を近くの店舗で受け取れるようにした。アマゾンは米国の経済そのものを変えている。中国のアリババも同様にスーパーを買収している。日本にも遠からずこうしたうねりが到来するに違いない。
そして、今度は別の産業にもその影響が波及する。モールやスーパーマーケットがつぶれ、物流の配達が急増している。クロネコヤマトなど運輸業界も人手が足りず危機的な状況である。そのためアマゾンでは、次に小規模配送業者アマゾンまでも囲い込んで、配達しようとしている。
過去10年間ネットでの競争が激しくなったことで、価格変更の頻度と地域差がない価格の浸透が高まったが、このような現象はIT(情報技術)の進歩なくしては語れない。
実店舗とネット通販双方の販売経路を持つウォルマートのような企業が、アマゾンといったネット通販大手にどう対抗するのだろうか。いずれの企業でもアルゴリズム技術(AIやビッグデータなどを用いた)による”価格設定”が浸透しているほか、インターネットによって価格不均衡が低下している模様である。
米連邦準備理事会(FRB)の複数の当局者は、ここ数年好景気にも関わらず、米国のインフレ率が低水準に落ち着いているのは、アマゾンのような企業が全般的に価格を統制する役割を果たしているせいかもしれないとみている。このような環境の中、小売業者はより機敏に対応し、やむを得ずマージンを下げている。ウォルマートは2016─18年の間、アマゾンでも売っている商品の価格をさらに頻繁に変えてギリギリの価格対応を余儀なくされている。
ウォルマートは先週、予想を上回る第2・四半期の売上高を発表した。実店舗の来客数が増えた上、ネットでの売上高も増えたためである。ネット通販の売上高は40%増となり、前期の33%増を上回ったが、マージンは5四半期連続で低下した。小売業者が他の要因にも反応しており、燃料価格や為替変動、その他価格設定アルゴリズムに影響を及ぼす要因は、これまでよりも早く、かつ大きく小売価格に影響している可能性がある。
今後もアマゾンは莫大なIT(情報技術)への研究投資を継続し、圧倒的競争優位を築くと見られる。当面、アマゾンの動きには、あらゆる業種・業態の企業経営者は注目しておくべきだろう。とくに、モノの販売を手がけている中小企業は、アマゾンにすり寄るか、独自の販売経路を確保するか、決断を迫られる。
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