安倍内閣が推し進める副業・兼業促進の影響もあり、近年、企業の間で「副業解禁」の動きが活発化してきた。
ソフトバンクもその企業の1つである。2017年より副業を解禁し、その件数は300件以上になっている。副業もイノベーションを生み出すことにつながると考え、さまざまな副業を認めている。
「1つの企業に寄りかかって安心できた時代は終わった。自分の可能性を広げる機会は、社外にも広がっている。」
「成果を上げなければ次の仕事はない。きびしいけど、働きたい時間に働けるスタイルが自分に合っている。」
といった考え方が世の中に浸透しつつある。
この春、ユニ・チャームの全社員に1通のメールが届いた。
「個人も会社も共に成長しましょう」。
入社4年以上の正社員約1,500人を対象に副業を解禁する。
介護やデジタルマーケティングなど本業に隣接する分野を推奨し、ノウハウ獲得を通じた事業領域の拡大を目指す。
これに対し「どんな業種が認められるのか」「時間管理のルールは」といった社員からの問い合わせが相次いでおり、関心は高いという。
ユニ・チャームは「人手不足の折、社員が多様なスキルを身につけられる環境づくりが企業にとって重要になる」とみる。
副業やフリーランス、テレワークなど、これまで本流になり得なかった働き方は、将来の就労人口減少に対応する一つのカギになる可能性を秘めている。
インターネット経由で単発の仕事を依頼したり受注したりする”ギグエコノミー”も広がりを見せる。
ただ、多様な働き方を受け入れるための労働法制の整備など、取り組まなければならない課題は多い。
例えば、労働基準法は原則1日8時間、週40時間までと労働時間を定めているが、副業・兼業に関する規定はなく、仕事のかけ持ちによる労務管理の責任の所在はあいまいである。
企業側には本業で得た機密情報の漏洩や、同業他社との兼業などトラブルを警戒する意見もある。
「副業が会社にばれたらどうなるのか。」
「本業の評価が下がることへの懸念から、はじめの一歩を踏み出せない会社員は多い。隠れて副業すれば企業側に訴訟を起こされるリスクさえある。」
といった指摘もある。
年初、厚生労働省の「モデル就業規則」に画期的な改定があった。
労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
「柔軟な働き方に関する検討会」の議論を踏まえ、副業解禁の方向性が明記された。
「すぐに欧米型の人材流動性が高い働き方を採用するのは不可能に近い」という。
そのうえで「新しい働き方をうまく取り入れ、労働生産性を最大限高めることが日本の生き残る道だ」
と強調した。
公正取引委員会がフリーランスの保護を打ち出すなど、多様な働き方の受容に向けた動きが本格化している。
一方、公正取引委員会は2018年2月、
企業がフリーランスに対し不利な取引条件や契約内容を超えた仕事量を押しつければ、「優越的地位の濫用」になる可能性があるという報告書をまとめていた。
厚生労働省の検討会は副業解禁を打ち出したが…
「『独禁法違反だ』と経営者に訴えて、本当に相手にしてもらえるのか。」
という意見に対しては
「不利な契約の押しつけなどは違反だとはっきりさせたことで訴訟をしても勝てる可能性は高まった」
とされる。
副業や兼業の人も含めるとフリーランスは約1,100万人にのぼるとされる。
働き方改革の大きな流れが公正取引委員会を動かした。
ところが、働き方改革の司令塔になるはずの厚生労働省は副業に関しては煮え切らない。
「非常に戸惑っている」のが実態であり、厚生労働省は企業の就業規則のひな型になる「モデル就業規則」で副業を認める案を提示したが、法令改正の具体論には触れておらず、
昨年末の報告書でも「社会の変化を踏まえて見直す」とするだけで方向性は示さなかった。
労働基準法の規定では、複数の企業で働く人の労働時間は合算して管理することになる。
そのため、仕事を掛け持ちする労働者を守るための規定が、働く人の選択肢を狭めている。
本業と副業先の企業が互いに労働時間を把握する仕組みは今でもなく、「合算ルールは絵に描いた餅」との声もある。
そして組織防衛の意識がブレーキをかける。
「合算をやめれば労働時間が増える。責任を問われたくない」(労働基準局幹部の意見)
ソフトバンクは昨年11月に社員の副業を認めたが、
「他社での勤務時間は把握できない」(人事本部)として副業先と雇用契約を結ぶことは禁じた。
このように合算ルールが企業の制約になる。
こうした制約はあっても労働者には「自分の市場価値を知りたい」といった動機が副業ブームの背景にある。
最近では、フリーランスの基盤となるプラットフォームビジネスも相次ぎ生まれている。
米国では2020年に労働人口の半分がフリーランスになるとの試算もある。
「日本も米国と同じ規模まで拡大する」と見込まれる。
「いつどこで仕事をするか誰も気にしない」米国企業が急増している。
社内の文書はクラウドを通じ、世界中誰でもアクセスし、修正したり意見したりできる。
出退勤の管理はなく、丸1日在宅で過ごすこともある。
「重視されるのは成果・結果だけ」となる。
特定の時間や場所に縛られない働き方が海外で急速に広がっている。
しかし、際だったスキルを持たない労働者の現実はきびしいものの、
副業は、労働者のやる気を引き出して生産性を高めるメリットもある。
働き手を守りつつ経済の成長や革新を促す仕組みができるか。
官民で多様な働き方を探り始めた日本も直面する課題である。
企業にとっては、社員が自分のスキルアップにつながる仕事や異業種の仕事をできるようにして、離職率を下げる狙いもある。
縦割りの閉塞感、優秀な人が辞めていく、出る杭(くい)が打たれる――
そんな停滞ムードを何とか打破したいという思いが、社内風土改善に向け副業を後押しする。
働き方についての調査で
「副業・兼業について20~30代の意識の高い若手がどう思っているのか」
という問いでは、75%の人が「興味がある」と回答した。
しかも理由の多くは収入のためではなく、スキルアップのためであることが分かっている。
このまま会社にいていいのか、外の世界をもっと知った方がいいのではないか
と考えるのが社員の退職理由の1つである。
従って、「これからは終身雇用ではなく、組織と個人が信頼関係でつながる『終身信頼』という時代になっていく」かもしれない。
日本企業が変わるための処方箋として、副業・兼業を採り入れ、労働者のニーズに応えることが企業業績向上につながる時代がくる。
とくに、IT系の会社は、あえてリスクをとって、社員が新技術に適応していくために、副業・兼業を推進することが有効な施策になると考える。
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