メールマガジン

vol.123 – 「デジタル請求書」

 

コロナ禍は当事者のみなさんには大変不幸な結果をもたらしています。しかし一方では、日本の古めかしい社会習慣を全面見直しするきっかけを与えてくれました。印鑑・ハンコ・固定電話・FAX・紙の書類・毎日家に届くがゴミにしかならない宅配物・DMや広告のチラシ・レジ袋・少ししか読まない新聞・領収書・請求書・見積書・重要書類といっしょにはいっている読みもしない分厚い説明書・通勤ラッシュ・豪華で広大な本社事務所や営業拠点・長くて実りのない会議・今まで知らなかった上司や同僚と部下の意外な私生活・・あるいは会社に寄りかかって生きている社員のあぶりだし・・・などです。

 

今回採り上げるのが請求書です。企業間でやりとりする請求書の完全なデジタル化をめぐり、政府と会計ソフト会社など約70社は標準ルールとして国際規格を導入します。共通仕様であればシステム上で自動的に請求書のやりとりが済ませます。同じ規格を利用する海外企業との取引も迅速になるでしょう。2022年10月をめどにサービスを開始し2023年度中に日本全体での普及を目指す計画です。

 

 

 

欧州・アジア・オーストラリアなど30カ国以上で利用されている「ペポル」と呼ばれる標準規格を採用します。この規格は「デジタル請求書」をネット上でやりとりするための文書の仕様・運用ルールを定めています。双方の事業者が「ペポル」のネットワークに接続した会計ソフトを使っていれば請求書は完全なデジタル化を実現できます。

国内のほとんどの会計ソフト会社が参加する見込みです。企業はいずれかの会計ソフトを利用していれば、追加コストがほとんどかからず、請求に関わる自動データ処理ができるようになります。会計ソフトを導入していない中小企業には政府が導入コストの補助を検討しています。

 

[「デジタル請求書」は何がうれしいか]:

政府は民間が政府調達する際の請求書のやりとりにこの規格を使うことを義務付ける方針です。実現すれば、海外企業との取引でも自動処理が可能になる利点があります。日本では企業が製品やサービスの代金を求める際に提出する請求書は、紙の書類郵送や、メールでPDFファイルをやりとりするのが一般的でした。受け取った企業は自社システムにもう一度データを入力し直しており、事務負荷が高い上に転記・入力ミスがあると後々ややこしいことになります。

 

仕様を統一していれば自動的に処理できるものの、日本では業界ごとや会計ソフト会社ごとに乱立し、これまでは業界や企業の垣根を越えた議論が進んでいませんでした。2023年10月に消費税額を正確に伝えるインボイス制度が始まるため、中小企業の会計作業はさらに煩雑になることが確実です。政府はその前に全国で自動データ処理の仕組みを普及させ、中小企業は事務合理化によってコスト削減で競争力を確保できます。

 

DXの大きな阻害要因が、紙の領収書や請求書の管理でした。データによる保存も制度上はできますが、第3者のチェックを受けるまで紙を保存しておく義務がありました。デジタルと紙の領収書が混在すると一層事態は混沌化します。デジタルで受け取っても印刷して紙で保存している現状は本当に情けないと思います。

 

領収書をスキャナーで読み込んでデータを保存した後、紙はすぐに捨ててよい決まりなら、いっそのこと最初からデジタルでやり取りしたほうが効率的です。ハンコと領収書問題をどう仕切るかが、コロナ禍において重要な政策でしたが、まず請求書から、デジタル化の動きが加速されていくでしょう。これが軌道にのれば、ハンコや領収書も同様の仕組みで展開できると考えます。

 

 

[世界に比べて日本は遅れすぎていました・・・]:

日本のデジタル化は海外に比べて大変遅れています。電子商取引利用率は経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国中で20位にとどまっておりIT後進国だと言えます。世界の電子インボイス関連市場は2019年:48億4千万ドル(約5千億円)で、日本は高々1億6千万ドル・・・ここまで非効率な事務が多いと競争力低下は避けられません。欧州連合は2008年にすでに請求書や受発注などの電子取引文書の仕様を決めていました。イタリアは2019年に企業も含めてすべて義務化しました。米国は業界毎に仕様が異なるものの、政府の電子調達では「デジタル請求書」の発行を推奨しています。

 

そこで、日本もようやく対策に乗り出します。大企業では業界内で同じ仕様の活用が進むものの、デジタル完結する取引先は2割程度に過ぎない有様です。中小企業に至ってはデジタル化対応自体をしていない企業も多いのです。今後は請求書データの入力・参照を各企業がクラウド上で進められるシステムを開発、取引先への入金や領収書作成を自動的に進める機能も視野に入れます。紙の保存を不要にする規制緩和はすでに実施されており仕様の統一でデジタル化が進むでしょう。

 

企業は現在1枚の請求書に人件費・システム費用合わせて”650円”以上をかけています。このデジタル化でそれが”100円”程度に抑えられ、従来の数分の一の事務負荷軽減となり、かなりのコスト削減効果を見込めます。

何がムダかというとまず”人”と”時間”のムダが一番大きいのです。事務量を減らしたら人件費も事務ミスに伴う手戻りによる損失も軽減される・・・これが重要です。

 

中小企業向けに月数百円程度で使えるクラウドサービスの導入費用補助も政府は宣言しました。オンラインで可能な税務申告・雇用保険や年金など行政向けの書類作成とも連動していきます。こうしたサービスは2022年秋から本格導入されていく予定です。

 

[「デジタル請求書」をきっかけにどう動くべきか・・・]:

あらゆる企業・団体・機関で在宅勤務の取り組みが広がっている中、紙の書類のやりとりが改革のネックとなるケースもあり、コロナ禍を落ち着かせ経済活動を正常化する上でもデジタル化推進が急務となっています。政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)でデジタル化を急ぐ方針を掲げ、官民データ活用推進基本計画で請求書や領収書のデジタル化を明記しました。行政手続きで問題が生じないよう政府も協議会と連携してくことになります。

 

[IT企業に対する「神様のお告げ」かもしれません・・・]:

「山川の末に流るる橡殻(とちがら)も身を捨ててこそ浮かむ瀬もあれ」: 出展:「空也上人絵詞伝」

橡殻(とちがら)とは栃の実が成熟して、弾け落ちた後の殻のことです。失敗したら一度すべてを捨てること(殻だけになること)で浮き上がること(社会の表にでること)ができるという例えです。

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」の意味は、自分の命を犠牲にする覚悟を持って、初めて窮地を脱し、物事を成就することができるということです。捨て身の覚悟で物事に取り組むことによって、危機を脱して活路を見出すことができます。

 

コロナ渦は多くの業界に多大な損失をもたらしました。しかし、在宅勤務など常態化する生活様式の定着によってこれまで当たり前だと国民みんなが思い込んであきらめていたことが、なんだ、こんなこと長い時間かけて会社に行かなくてもできるし、時間の有効活用やコスト削減も図れるではないかと、前々から思っていたけどなんでこんなムダな意味のないことしていたんだ・・・いろんな立場の人々が新たな気づきを得て、すべての組織・仕組・規程・言動などを改革しつつあることは望ましいことだと考えます。

 

このように現在起きつつあることにはすべて意味があります。どれをとっても、”IT企業が活躍すべき場”は山ほどあることが分かります。データや情報なしではできない、新たなシステム・新たなアプリの開発なしではできない・・・[製造]・[金融]・[流通]・[商社]・[公共]・[学校]・・・これらすべてを支える社会インフラとして[ICT](情報通信技術)の果たすべき役割は極めて重要です。政府がデジタル庁を新設した覚悟を民間も一体となって推進していきなさい、これが「神様のお告げ」かもしれません。

いよいよこれからがIT企業に関わっているみなさんの出番です。

 

以上