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vol.124 – 「現代の”お見合いおばさん”・”AI”」

世話好きな”お見合いおばさん”、昔は誰の周りにも必ずいました。普段はいい人でも「あなた結婚はまだなの?結婚しないとご両親が悲しみますよ。幸せになりたければお見合いしなさい。こんな人はどう。」としつこく縁談を勧められ面倒だという話がよくありました。恋愛と見合い、どちらがいいのでしょうか。現代には多様な結婚観があり、結婚は「一生涯をパートナーと共に過ごす」という人生における重要な”事案”です。

 

では結婚の決め手となるポイントは何でしょうか。学歴・経済力・”価値観”や”人生観”・オカネに対する考え方・育った環境・お互いの仕事や趣味への理解・容姿とセンス・・・これらがまず思い浮かびます。結婚歴が長い人に聞くと、外見・見た目よりも性格の大事さが分かります。包容力・優しさ・いたやり・思いやり・”親切”や丁寧さ・”誠実”で家庭的・責任感の強さ・忍耐力あたりでしょうか。二人の関係性側面からは、本当に好きか・気を使わない・大切にしてくれる・本音が言える・いっしょにいて楽で安心・相手の家族や親戚友人に問題がない・家事分担について納得いく・その他相性・・・実に複雑です。結局うまく折り合えず、3組に1組は離婚するという統計があります。

 

チャット開通後1カ月以内でのデート進展率は約33%、そしてデートに誘った場合の受託率は88%となりました。そんな、”お見合いおばさん”も驚く数字をたたき出したのが、人工知能(AI)を使った恋愛ナビゲーションサービス「Aill(エール)」(株式会社Aill(エール):代表取締役:豊嶋千奈さん:2016年10月設立:東京都港区)です。これは、2019年11月~2020年3月に実施された試行結果です。AIの恋愛支援がない場合に比べて、デートへの進展率は4倍、受託率は8倍に達し、違反行為もゼロだったそうです。

 

こんな衝撃的な実績を擁し、「Aill(エール)」は2020年9月から本格展開を開始しました。政府は2021年度から自治体による「AI婚活システム」の導入を支援する方針を決めましたが、先行して「Aill(エール)」は企業の福利厚生サービスとして広がりつつあります。大手会員制福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」を運営するベネフィット・ワンと業務提携しており、すでに導入企業はNTTグループやみずほ銀行、JR東日本など、2020年12月初旬時点で490社「2021年3月ごろには2,000社に達する見込み」を超えているそうです。

 

これが「Aill(エール)」のアプリ画面、左がマッチングした異性の紹介画面です。中央はやり取りをする異性とのチャット画面で、恋愛が進展する助言を犬キャラが担います。右が相手の好感度を示す画面です。

 

コロナ禍で企業が新たに直面した問題が背景にあります。在宅勤務が広がり、飲み会も自主制限せざるを得ない状況下、独身社員の出会いの場が失われつつあります。私生活が充実していないと仕事の品質・生産性に影響することは必至です。しかし、ここを支援すれば社員のやる気や会社への忠誠心・熱意が高まる期待があります。社員の仕事充実化と生活支援の相乗効果を生み出す施策として、企業は「Aill(エール)」を取り入れ始めました。

 

「Aill(エール)」は不特定多数が登録する既存のマッチングアプリとは異なる”独自性”と”差別化”を実現します。参加できるのは、導入企業の独身社員だけで、参加者の身元が担保されているので安心感があるという訳です。サービスの中身も、既存のマッチングアプリが写真や簡単なプロフィ-ルだけを頼りに男女が出会うまでを支援するのに対し、「Aill(エール)」はAIがチャットを使った会話を応援、デートにつなげるなど恋愛の進展を手助けします。知り合った2人が付き合うことになったら、「Aill(エール)」からは「卒業」する仕組みです。試行結果では、早い人で利用開始から3カ月、多くは6~8カ月程度で卒業していきました。

 

 

「Aill(エール)」のAIは「紹介ナビゲーション」「会話ナビゲーション」「好感度ナビゲーション」の3機能から構成されています。では、なぜ冒頭で紹介したような高確率の恋愛成就が達成できるのでしょうか。

 

[もう恋愛で傷つかなくなる?]:

「Aill(エール)」に登録すると、利用者には1日に1~5人の異性が紹介されます。利用者が登録した生活スタイルやキャリア開発計画などの個人情報をAIが分析し、相性がいい・進展可能性が高いと判断した異性を提案する仕組みです。そのため、一般のマッチングアプリのチャット開通率が10~30%といわれる中、「Aill(エール)」は73%を超えます。数打てば当たる方式ではなく、そもそも最初の出会いからして段違いの精度です。

チャット開通後もAIの支援は続きます。犬キャラAIがチャットに適宜登場し、デートに誘う自然なタイミングや、デートの大義名分創出、2人の親密度が上がる会話の流れをつくります。例えば、以下のような流れです。

男性:「ひろみさんも、野球好きなのですか?」

女性:「はい。大阪人なので、もちろん阪神ファンです。」

AIの犬キャラ:「ひろみさんを甲子園観戦に誘いなさい。」「OK確率80%以上ですよ。」「近場の喫茶店観戦ならさらに安心かつ親密度が増します。」

男性:「ひろみさん、よかったら今度の巨人-阪神戦、一緒に難波の喫茶店で観戦しませんか?」

女性:「いいですね!喜んで。」

 

AIによる会話支援は、男女間の対話で起こりがちなすれ違いパターンを分析し、それを解消するアルゴリズムを組み込んでいます。例えば、「週末は何して過ごしますか?」と聞かれて、「家でスポーツ観戦しています。」と返答があったときに、「部活は何していましたか?」と続けていっても、相手のプロフィ-ルが詳細化されるだけで、それ以上進展しません。最初は相手を知るために必要ですが、これをいつまでも繰り返してしまう人が多いことが分かりました。

 

そこで、頃合いを見てAIが恋愛の進展をもたらす「合いの手」を入れます。時には「秘密の質問コーナー」が出現し、結婚後の生活費に対する価値観(誰が財布を握るか・・・)に切り込むなど、じかに聞きにくいこともAIが間に入って引き出してくれます。人間と1対1の対話を行うシナリオ型のチャットボットとは違い、『男女双方』の話の流れや気持ちの変化などをAIが解析しているため、両者の心の機微を捉えながら適切な道案内ができます。

 

もう1つ、恋愛の成功確率を高めるAIの働きが、「好感度ナビゲーション」機能です。これはやり取りする異性の自分に対する好感度をグラフで示すもので、個人情報の深まりやチャット頻度・その内容・他の異性との対応の違いなどからAIが導き出します。相手の気持ちの変遷が手に取るように分かるから、好感度が上がっていく過程で気持ちは高まるし、事前に成功しそうかどうか予測できるので、デートに誘うなどの行動も取りやすくなります。

 

異性との対話では論理的な部分が必要ですが、本当に恋愛が進展していくには、それだけではダメでしょう。あらかじめ自分への好意が分かると、相手の本音や本質に目を向けるきっかけになり、そこから距離がぐっと縮まっていきます。この両方を「Aill(エール)」のAIは支援する仕組み」です。こうして結果が不透明な恋愛の心理的ハードルを下げ、AIに背中を押されながら「傷つかない恋愛」をできるのが「Aill(エール)」の優位性です。

 

[AIが学んだ営業と恋愛の共通ノウハウとは?]:

社会人がある程度自立していくと「このまま仕事だけの人生でいいのか」と考えはじめます。しかし、「忙しいので、不特定多数ではなく最初からちゃんとした人と出会いたい。」「仕事は好きなので、共働きに理解ある人と出会いたい。」といった悩みを持つ人は多いはずです。

 

AI開発に当たっては「相手を知ってから対話を通して愛を育む恋愛の過程は、認知から頻繁に利用する固定顧客へ移行させていく営業プロセスに似ている。」ことから気づきを得たそうです。例えば、どのタイミングで何をすれば相手の心が動くのか、どのようなきっかけで具体的な行動が伴うようになるのか、論理性と情緒を組み合わせた絶妙な”かけひき”が求められます。

 

 

こうした複雑な対話を解きほぐすAIの共同開発チームは強力な布陣でした。AIシステム設計は東京大学の松原仁教授、ナビゲートエンジンの開発は北海道大学の川村秀憲教授、データ分析は東京大学の鳥海不二夫准教授が担いました。

 

現在、急速に利用が拡大している「Aill(エール)」ですが、2020年11月からはJR東日本と手を組み、恋愛を通じた地方への移動創出と地域活性化に向けた実証実験を開始しました。コロナ禍で注目を集めている働き方改革で働く場所と環境が多様化していく中、地方創生の側面でも期待が高まっています。

 

[デジタル化やAIが社会問題解決の糸口となるかも・・・]:

また、「Aill(エール)」ならデジタルで対話を積み重ねた上で成功確率の高い相手に接触できるので、手当たり次第現実で異性と会う必要もなくなります。その意味でも、コロナ禍時代に即したサービスといえます。「3年後をめどに全国展開し、5年後には利用者30万人規模を目指していく。」・・・この勢いは加速されていく見込みです。将来的には恋愛以外の対話にもAIを活用していく展開が見えてきます。例えば、夫婦間や家族間・上司と部下など、「さまざまな対人関係において、AIがご縁を取り持って対話と協調の課題を解消していけるかもしれません。

 

「Aill(エール)」が巻き起こす恋愛革命は、日本が直面する少子・高齢化問題の解決につながるだけではなく、コロナ禍で断絶された人間社会をより円滑にしていくでしょう。これから形づくられるデジタル都市においても、人々の関係性をつなぐ重要な構成要素となります。政府がデジタル庁を新設して官民一体となって、こうした新技術の応用を推進すれば、日本が再び輝きを取り戻すことができると考えます。

 

ここまでは、いいことばかりのようですが、そう簡単にいくかなという疑問もあります。お酒を飲むと人格が変わるとか、いっしょに暮らしてみるとこんなはずじゃなかったとか、暴力・暴言、不倫や浮気、子供ができて分かったこととか、考えだしたらキリがないのですが。それと失恋・ふられた気持ち・失意からの復活とか、それらの体験は悪いことばかりではないでしょう。さらにいうと、こうしたアプリを使える企業に所属していない人たちは置き去りにされ格差社会を助長する可能性もあります。また、人によっては、機械に恋愛・結婚まで頼りたくないという抵抗感があるかもしれません。しかし、このアプリの素晴らしさ・発想は否定できません。これですべてうまくいくと思い込むのは危険ですが、設立してわずか5年でここまでこぎつけるとは凄い手腕です。今後どう進化していくか楽しみです。

 

以上