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vol.125 – 「3人のレンガ職人から仕事の意味を考える」

私が、最初の職場となった商社様でSEとして働いていたときのことです。その商社様が社運を賭けて外為(がいため)システム再構築案件を立ち上げることになりました。そこではじめて、自分が後(のち)の考え方に変革をもたらす重大なことを学びました。そのプロジェクト責任者の課長さんが、このプロジェクトに関わる業務所管・PM・SE・PGや運用・保守・事務スタッフなど全員を集めて事業・業務説明会を実施したのです。それまでは要件定義書をもらってそこに書いてある通り、創意工夫もせず、まんぜんと設計・開発してました。自分が書いた設計書やプログラムがこのお客様の”事業”・”業務”にとってどんな位置づけで何の目的で使われるのか知ろうともせず、仕様を決めるのはお客様の仕事としか捉えてませんでした。

 

説明会最後の質疑応答で、疑問に思った私は、「なぜそんな”事業”・”業務”を開発者が知るべきなんですか?」と質問しました。すると、みなさんにこれからつくってもらうシステムの”背景”・”目的”や完成後どう活かされるかという意義を理解してもらうことが大事なんですよと言われ、自分の質問の愚かさを知ったのです。業務改革目的の共通理解が、みなさんの業務知識習得につながり、使命感・責任感・モラルを高めたり、あるいは、そんな要件だったらこの仕様は間違いではないかと指摘してくれたりすることを期待していると熱く語っていただいたのです。その説明会の場が、いい意味での”緊張感”で静まりかえった瞬間、これはいつか恩返ししなければいけない・・・そう感じました。情報処理技術者3年目の若輩者にとって衝撃的な出来事でした。

 

仕事をしている人の心中には以下のように様々な”価値観”の多様性があります。

(1)「言われたことだけこなし、お金をもらうもの」と割り切っている人・・・

(2)「自分の処遇や立場に見合った働きを適度にするもの」と考えている人・・・

(3)「現状に感謝し、与えられた仕事を精一杯責任持って最後まで誠意を尽くそう」と思っている人・・・

誰しもが仕事で成功したい、スキルを上げたい、キャリアを積みたい、人間として成長したいと思っている訳ではないのです。しかし、この説明会に参加した人たちのうち、たとえそれが50人中の2-3名にしか響かなかったとしても、私にとっては画期的事件でした。結果的にそのプロジェクトは品質・費用・納期・生産性・提供価値、あらゆる面で成功しました。

 

そもそも仕事とは、働く目的とは何でしょうか。「お金のため・自分のため・家族のため〜」「社会の一員として認められたい〜」「自分の能力や才能を開花させたい〜」「仕事を通じてやりがい・生きがいを感じたい〜」「縁あって同志となった仕事仲間と良好な関係を築いて喜びや楽しみを共有したい〜」・・・実にさまざまであり、一人ひとり違うはずです。

 

よく知られた有名な話があります。「3人のレンガ積み職人」というお話です。イソップ寓話である説とロンドンの大火で失われたセントポール聖堂の再建を任された建築家が実際に工事現場で経験した実話という説もあります。

ある旅人が3人のレンガ職人それぞれに「何をしているの?」と問いかけます。この話に出てくる3人のレンガ職人は、3人とも『レンガを積む』という、まったく同じ仕事をしています。そしてそれぞれが下記のように回答をします。

(1)1人目のレンガ職人

「見ればわかるだろう。レンガ積みをしているんだぜ。朝から晩まで、ワシはここでレンガを積まなきゃいけないのさ。雨の日も暑い日も寒い日もどんな時も一日レンガ積みさせられる。日当なんて知れたもんだ。もう、心も体もボロボロになるわな。」

(2)2人目のレンガ職人

「オレは、ここで大きな壁を作っているんだ。これがオレの仕事でね。この仕事のおかげでオレは家族を養っていけると思うと嬉しいし、こんなありがたいことはない。」

(3)3人目のレンガ職人

「実は、私は歴史に残る偉大な大聖堂を造っているのです。ここで多くの人が祝福を受け、つらいこと・苦しいこと・あらゆる悲しみ・哀しみから解き放たれることでしょう。本当に毎日張りがあってワクワクドキドキの連続です。素晴らしいと思いませんか。」

 

同じ仕事をしている3人に同じ質問をしたにもかかわらず、目的・目標の有無でこの3人の”仕事に対する考え方”や”取り組む姿勢”は、まったく違っています。

 

[同じ仕事をしていても気持ちひとつ切り替えるとこうも変わる]:

3人のレンガ職人への「何をしているか」の問いかけに対する答えから、次のようなことが分かります。

(1)1人目のレンガ職人:「レンガ積みに決まっているだろ」→特に目的はないようです。

(2)2人目のレンガ職人:「この仕事のおかげで俺は家族を養っていける」→生活費を稼ぐのが目的です。

(3)3人目のレンガ職人:「歴史に残る偉大な大聖堂を造っている」→後世に残る事業に加わり、世のため人のために貢献することが目的です。

 

(1)1人目は、希望・夢・志などの使命感はまったくありません。仕事はやらされるからするだけ、なるべく手抜きしてやろう、ただ言われたからやるだけ、言われなければやらないと考えます。ひたすら“レンガ”しか見ていません。作業としての仕事・役務としか感じていません。

 

(2)2人目は自分と家族のことが頭の中を占めており、“お金を稼ぐため”に否応なしに働いています。彼には“壁”しか見えていません。しかし丈夫な“壁”をつくろうとする意志は持っています。「もっとお金になる仕事はないかな、仕事が一段落したら転職先を探そう。」と心中では違うことを考えていたりします。

 

(3)3人目は、「後世に残る歴史的事業に参加して町中の人を笑顔にするため」という崇高な志を抱き、明確な目的意識を持って働いています。100年以上先に完成する“大聖堂”建設のため、仕事を自分の“使命”と感じています。その背中を見た人は自分もこうありたい・・・と思うようになるでしょう。

 

一番意識高く仕事をしているのは、3人目の職人です。目的がしっかりしていて、その目的を果たすために自分がどのような貢献ができるのか、世のため人のために尽くすことで得られる達成感・充実感を自分で考えるからこそ、より良い仕事をしよう、このレンガの積み方では納期に間に合わない、今手にとったレンガは不良で使えない、レンガを製造している工場に改善要望を出そう、今後何百年も崩れない安全な壁をつくるために継続的改善をしよう・・・次々とこの仕事に積極的に関わる姿勢が生まれます。

 

そのときから10年後、3人はどうなったと思いますか?

1人目は相変わらずブツブツ文句を言いながらレンガを積んでいました。2人目は、すぐ転職し賃金は高いけど危険の伴う屋根の上で仕事をしていました。そして3人目は、現場監督として多くの職人を育て、出来あがった大聖堂には彼の名前が刻まれました。

 

[経営者や管理職はどうあるべきか。]:

では、やらされている感のある1番目の職人や、仕方なく生活のために働いている2番目の職人のような社員の目的意識を高めるにはどうしたらよいのでしょうか?とくに注力しないといけないのは2番目の職人のような社員たちです。なぜならば、この集団が離職・退職・転職予備軍であり、会社の中で多数派を占める中堅社員です。この方々の活躍があれば、企業は活性化できます。それにはまず、企業のあるべき姿・なりたい姿・目的・目標・夢・志・方向性などをビジョンとして明確にし、社内研修や社内報でこれらを徹底的に現場レベルまで落とし込み、目的達成のための模範的行動を称える人事制度確立や、ビジョンに共感する人財採用・育成配置などを行う必要があります。

 

他にも、事業計画・戦略策定へ社員を関与させ、中間管理職に裁量を与え、権限委譲をすることも、目的意識向上に効果的です。なぜなら、自分の考えが会社に必要とされていると「やらされ仕事」が「自分の仕事」に変わり、仕事に”価値”を見出すことができるようになるからです。こういった企業文化があってはじめて、ビジョン実現のための使命・目的・役割・存在意義などを自ら考え、前向きな言動を促して人財を育てることができます。

 

経営者や管理職の立場にある方々にとっては、社員が3人目のレンガ職人のように、目を輝かせて、意欲的に働くことのできる職場を実現するために、自社の経営理念や目的をしっかりと示すことが重要です。しかも、自社の経営理念や目的を「スローガン」として掲げることに留まらず、社員一人ひとりに共感され、自分事として受け止めてもらうことが必要不可欠です。企業がこうした目的を掲げてもただちには業績向上につながらないかもしれません。

 

しかし、目的・目標があり、かつ、経営層の期待や展望が明瞭・明快である会社を分析すると、中長期的には財務面でも優れた実績をもたらしていることが分かります。組織全体としての目的・目標を掲げるとともに、その実現に向けて、社員一人ひとりにどのような役割・貢献が期待されているのか、個々の仕事が全体の目的とどうつながっているのかの意味付けをすることが肝要です。

 

[幸せを呼ぶ仕事の在り方とは・・・]:

3人のレンガ職人の寓話は、働く側にとっても深い示唆を与えてくれると思います。普段、みなさんは何人目のレンガ職人の気持ちで働いているでしょうか、ぜひ自問自答してください。もちろん、上司の指示に従うことも、生活費を稼ぐことも大事です。しかし、せっかく人生の貴重な時間を労働に費やすならば、より意義ある仕事をしたいと思いませんか。

 

もちろん、組織のなかで働く上では、まずは与えられた役割を果たすことが求められます。たとえ、そうだとしても、その与えられた役割が、組織全体の目的とどう結びついているのか。そういったことを心中で考え、職場の同僚・上司・先輩と話をしてみてはいかがでしょうか。もし与えられた仕事・職務の意味が分からなかったら、しかるべき上司に本来の目的は何ですかと聞いてみましょう。起きてきたことにはすべて意味があるはずです。「組織内で、自分たちが世の中にどう役立ちたいのかについて、日常的に会話がなされている」会社は成長し続けます。どうせ働くなら、「これが自分の天職だ、この経験・スキル・働きぶりが周囲を明るく照らす。」と言い切りたいものです。幸せになりたい・・・誰しもそう思っていると信じます。自分自身の仕事の究極の目的・意義は何なのか、誰もがそうしたことを意識しながら行動する会社であればどんな困難でも乗り越えていけるのではないかと考えます。

 

以上