• 株式会社ビジョンクリエイト

vol.113 – 「スーパーアプリ」

2019年における技術系ベンチャー界最大の話題は米ウーバー・テクノロジーズの上場でした。国内だとヤフーを運営するZホールディングスとLINEの経営統合が一番大きなトピックでした。これら2つの話題は一見関係なくみえますが、実は「スマホを通じて利用者の生活すべてを支えよう」という考え方が共通しています。

こうした考えに基づくアプリを「スーパーアプリ」と呼びます。1つのアプリで多種多様なサービスを使うことができ、金融サービスから生活全般そしてメッセージによるコミュニケーションまでを完結させるものです。有名なものでは中国・騰訊控股(テンセント)のメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」や中国アリババ集団の「支付宝(アリペイ)」がそもそもの起源でした。ウーバーもヤフー+LINE連合も、自社のアプリを「スーパーアプリ」に仕立てていこうとしています。

「スーパーアプリ」としてさまざまなサービスをひとまとめにすると、各種データを自動的に収集できるようになります。これがインフラ基盤としては魅力になります。仮に飲食関係の宅配・QRコード決済・配車サービスを別々に使っているとしましょう。そうするとQRコード決済でインスタントラーメンを購入した利用者はラーメン好きだと想定できますが、宅配アプリが別だとアプリを利用してもらったときにラーメンのオススメを提案できないわけです。すると、個人にあわせた「おもてなし」を提案するチャンスを逃すことになります。

1つのアプリでサービスを提供できれば、こうしたデータ共有・活用が容易になります。利用者はサービスごとにアカウントやクレジットカード情報を登録する手間がなくなるメリットがあります。ヤフーとソフトバンクグループが展開する「PayPay(ペイペイ)」はQRコード決済サービスで先頭を走っています。またネット通販「ペイペイモール」にも力を入れています。

一方LINEは日本のメッセージアプリでは圧倒的に普及しています。ヤフーが以前カカオトークを買収しても追いつけませんでした。さらに保険サービス「LINEほけん」や株取引サービス「LINE証券」など金融に力を入れています。経営統合にあたり、お互いのサービスを統合して「スーパーアプリ」を作る構想を打ち出しています。

しかし、なぜ今なのでしょうか。ウィーチャット・アリペイ・ウーバーばかりでなく、「スーパーアプリ」が東南アジアに相次ぎ登場しており、これらが時価総額1兆円という巨大規模を擁して、いつ日本に上陸してもおかしくない状況だからです。まさにピンチをチャンスに変える時期がきたと言えます。事業者グラブゴジェックウーバーウィーチャットアリペイヤフー+LINE決済○○–○○○(LINEPay,PayPay)メッセージ送受信–○–○–○(LINE)配車○○○–○○(DIDi)宅配○○○○○○買い物○○–○○○ヘルパー派遣○○–○○–証券(株取引)○○–○○○(LINE)

世界には多数の「スーパーアプリ」があり、多様なサービスに対応したアプリが、特にアジア圏で成長しています。例えば東南アジアにはシンガポールを中心とするグラブとインドネシアを中心とするゴジェックがあります。ゴジェックの創業者は最近辞任してインドネシアの閣僚になると発表し話題になりました。この2社は配車アプリから出発して独自の進化を遂げ、今や東南アジアにおける生活に欠かせない「スーパーアプリ」になっています。単に「アジア版ウーバー」の配車アプリにすぎないとタカをくくっていると日本企業はいつか痛手をこうむることになります。

グラブはマレーシアのクルマ部品企業の財閥出身であるアンソニー・タン氏が2012年に、米ハーバードビジネススクールのクラスメートだったタン・ホーイリン氏と共同で創業しました。拠点をシンガポールに移し、ウーバーと激しく東南アジアにおけるシェアを争いました。どちらもソフトバンクのビジョン・ファンドの投資先であり、2018年にウーバーから東南アジア事業(カンボジア・インドネシア・ミャンマー・フィリピン・シンガポール・タイ・ベトナム)を譲渡されました。

ウーバーはモビリティーサービスの代表格として、東南アジアでは大きなシェアを取りつつあります。さらに今後の人件費抑制を見越し自動運転タクシー開発を進めています。一方でインドネシアのインターネット決済関連のKudo(クド)や、インドの決済スタートアップiKaazを買収しました。彼らは金融事業にも乗り出し、各国の生活インフラを席捲しつつあります。またビジョン・ファンドからの出資という共通項から、中国の滴滴出行(DiDi)や、平安保険などが東南アジアでサービスを展開する際の足がかりの役割も果たしています。

ゴジェックはインドネシア出身のナディム・マカリム氏が普段使っていたバイクタクシー「オジェック」に可能性を見いだし2010年に創業しました。最初はバイクに特化したモビリティーサービスでしたが、今は宅配や引っ越しを含む物流全般だけでなく、ポイント/クーポン配信・買い物や家事代行・修理手配・占い・寄付・フィットネス・レストランなどの予約・洗車・医療・チケット購入・ニュースリーダー・携帯電話料金決済など20近いサービスを軒並み横断する凄い「スーパーアプリ」となっています。

2社に共通しているのは、ウーバーという米国のビジネスモデルの可能性にいち早く気づいて自国に持ち帰っただけでなく、スマホによるサービスが広がりきっていない領域に勝機を見出し、金融など他国に比べて欠けているサービスを次から次へと取り込んでいる点です。例えばNNAの調査によると、インドネシアでは15歳以上の半分ほどの人が銀行口座を持っていません。しかもクレジットカード保有率も2%と非常に低い状態です。一方で携帯電話普及率は91%と高い点が特徴です。

そこで「スーパーアプリ」が活躍する土台ができます。一度アカウントを作れば、それを起点にさまざまなサービスを使えるので、他サービスよりも利用しやすくなります。それまでのサービス利用状況データから、どのサービスと相性がいいのかを分析して教えてくれるのも、「スーパーアプリ」ならではの優位性を際立てさせます。

ウーバーは2019年10月に金融サービス「ウーバー・マネー」を発表しました。グラブやゴジェックのように、決済・金融機能を強化してきました。一度東南アジアに輸出されたビジネスモデルが米国に逆輸入された格好です。思い起こすのは昔の日本です。自動車・テレビ・ステレオ・ゲーム機などのコピー製品を開発・販売するだけではなく、さまざまな改善を施して利用者に届けました。昔はハードウェアで起こっていたことが今はソフトウェアやサービスでも起こっているのです。

地域によって必要とされているサービスは違うため、そのニーズをいち早くくみ取れば成長は加速度的に進みます。さらにある地域でうまくいったサービスが他の地域に転用できる可能性もあるため、よいビジネスモデルを見つけたものが次の覇者になります。グラブは2016年にホンダ、2018年にトヨタから出資を受けました。

シンガポールで2022年までに完全自動運転車による無人タクシー商用化計画を発表しています。東京を中心とした首都圏は約3,800万人と世界最大の都市圏人口を誇りますが、あと数年するとジャカルタに人口では追い抜かれるといわれています。1人あたりのGDPではまだ小さいとはいえ、新しいサービスが続々と出てきている東南アジアから学ぶことはこれからも増えていくでしょう。

三菱UFJ銀行とグラブは「スーパーアプリ」を通じた金融サービスで協力すると発表しました。個人向けローンや保険を手掛ける見通しです。データ分析をもとに個人や中小事業者のニーズをとらえた融資提案などを目指すそうです。東南アジアにある三菱UFJ銀行グループ商品もアプリ内で販売できます。グラブが持つ1億7千万超の顧客基盤を活用し、「スーパーアプリ」による融資や保険の事業を共同で展開するとみられます。

スーパーアプリ

世界の金融大手はスマホアプリなどを通じて幅広い顧客のデータを蓄積するプラットフォーマーとの連携を強めています。米ゴールドマン・サックスは2019年から米アップルと組んでカード事業を開始しました。米シティグループもグーグルと口座開設サービスを始める方針です。既存銀行にとってプラットフォーマーとどう提携関係を結ぶかが重要な経営課題となっています。

東南アジア諸国と違って、さまざまな生活インフラがすでに整備されてしまっている日本では、このような「スーパーアプリ」が普及する際の足かせになるでしょう。

しかし、だからといって、今のままでいいと思っている消費者は少ないと思います。もし、より効率的・便利で快適かつ安全・安心なサービスがあれば、消費者はそれに順応していくと考えられます。ITで事業拡大したい企業は、どんな構成で、だれと組んだら「スーパーアプリ」の一翼を担うプレイヤーとなれるかを模索し、この流れにのることが大切です。

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