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vol.119 – 「べーシックインカム」

  • 執筆者の写真: 株式会社ビジョンクリエイト
    株式会社ビジョンクリエイト
  • 2020年9月1日
  • 読了時間: 4分

更新日:2021年12月10日

「べーシックインカム」(最低所得保障)をはじめとした所得保障制度導入論が先進国で再び勢いづいています。スペインが先行導入し、米国などでも実証実験が予定されています。新型コロナウイルスが低所得層を直撃したことや、経済構造の急速な変化が雇用を不安定にしていることが背景にあります。

「べーシックインカム」は全国民に一律金額を恒久的に支給し、必要最低限の生活を保障する仕組みを指すのが一般的です。生活保護をはじめとする既存の所得再配分政策が貯金や自宅などの保有資産・収入によって受給対象を厳しく絞るのとは一線を画すものですが、国家全体で本格導入した例はまだありません。

一律の所得を保障し、他の収入で届かない差額を支給する制度を指している事例もあります。

スペインが2020年6月中旬に受付を始めた制度がこれに該当します。「民主主義における歴史的な政策となる」。サンチェス首相はこう自賛しています。世帯人数に応じて単身なら月462ユーロ(約5万7千円)、5人以上なら月1,015ユーロという所得保障水準を設定しました。給与など現在の収入で一定水準に届かない世帯が支給対象になり、差額を支払うものです。新型コロナで若者の失業が増えるなど生活に行き詰まる人が増えたために導入しました。人口の5%に相当する230万人を対象となりました。年30億ユーロとみられる財源は企業の優遇減税縮小や新たなデジタル課税での調達によって実現されます。

自由と競争を重視する米国でも2020年6月末、ロサンゼルスなど11都市の市長らが実証実験をすると宣言しました。コロナによる雇用や収入への打撃が広がったためで、市民に無条件で支給するのが基本構想です。もともとは2008年のリーマン危機後や2010年ごろからの欧州債務危機時も導入論が勢いづいたことがあり、それがさらにコロナ禍で外出自粛や営業制限のため、小売店などで働く低所得者の打撃が特に大きいことに配慮したものでした。

これにはデジタル革命の進行も絡んでいます。人工知能(AI)などは店舗や工場といった幅広い雇用機会を奪う側面があり、「べーシックインカム」は失業者が次の仕事に移るまでの生活を保障する手法として期待されます。米シリコンバレーなどで支持者が多いようです。FaceBookのマーク・ザッカーバーグ氏は「新しいことに挑戦するためのクッションをすべての人に与えるためだ」と強調しています。

既存の生活支援は資産や収入が増えれば受給資格を失います。これだけだと「貯蓄や高度な職に就くことへの動機づけを弱める」ことが懸念され、全国民への無条件「べーシックインカム」導入機運が高まってきたわけです。

しかし、「べーシックインカム」構想は、一律支給することで生活保護認定などにかかる事務コストが下がることを前提としています。このため、他の社会保障制度から「べーシックインカム」に全面的に切り替えることができるか、また支給される金額で本当に現在必要な生活費が賄われるか、検証・評価が必要になります。

AIが人の知能を超えるようになると、一握りの人々が、AIと一体となってデータを独占することによりすべてをコントロールし、それ以外は「無用者階級」になる。そんな超格差社会が出現するかもしれません。「その他大勢」は、ベーシック・インカムで単純労働から解放されるかもしれませんが、それが果たして幸福な生活と言えるのでしょうか。

仕事が無くなることで生活習慣はかなり変化します。決まった時間に寝起きして、決まった時間に出勤して、毎日張りのある生活リズムができました。それが崩れるとどうなるでしょうか。終身雇用・年功序列・・・高度経済成長で我々が常識として疑わなかったことが、なにかおかしくないかと問われているような気がします。

また、一部巨大IT企業による「デジタル独裁」に陥る事態をどう防ぐべきでしょうか。民主主義をどう守るのか、デジタル時代における人間の尊厳とは何か、これまで積み重ねてきた歴史の教訓から導き出される新たな人類の知恵が求められています。

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