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vol.130-「製造業の不正問題」

日本の製造業が世界に誇ってきたもの、それは「高品質」です。その”強み”が揺らぎつつあります。リコールに至ったデンソー製部品の”不具合”、三菱電機の”不正検査”など問題が相次いで発覚しました。なぜ、このような事態になったのか、「高品質」を実現する力は失われてしまったのでしょうか。ここには、日本社会に根付く”奥深い価値観”が根底にあると考えます。いくら”モグラたたき”を続けても、次から次へと、あらたな”モグラ”が出現するのは必至です。どのようにして歯止めをかけるべきでしょうか。

三菱電機における鉄道車両向け機器の”不正検査”報告現場では、30年以上も前からそれが”常態化”していたそうです。

[最近の製造現場不正行為抜粋]:

最近の製造現場不正行為抜粋

これら以前には、2008年の新日本製鉄やJFEスチールによる鋼管データ”捏造”があり、曙ブレーキ工業の検査データ”改ざん”不正などがあります。つまり、不正が問題になって、今回のように経営者が責任を取るような重大事になっても、現場では粛々と不正が続いていたということになります。ちなみにKYB(カヤバ)はあれだけの「おおごと」になっても、会社はつぶれずにそれなりの業績を維持しています。つまり”製品品質”自体は優れていて、世界の顧客から認められているのです。

「これだけ多くの不正が長年に渡ってどうやって隠されていたのか」、不思議ですが、これは現実に起きたことであり、その根本原因に迫っていかないと、この問題は解決できません。

[顧客が求める品質を維持するのが、難しくなっていると感じるか]:

顧客が求める品質を維持するのが、難しくなっていると感じるか

顧客が求める品質を維持するのが難しくなっていると「強く感じている」「やや感じている」は、合わせると80%近くになります。「全く感じていない」はわずかで、日本の製造業が直面する”品質維持”への”危機感”は深刻です。顧客が求める”品質”と、供給側が競争力を維持しながら実現できる”品質”との間の乖離(かいり)が背景にありそうです。

[顧客の要求品質が、過剰だと感じたことはあるか]: 顧客の要求品質が過剰だと「頻繁に感じる」「たまに感じる」との回答も80%近くを占めます。機能・性能に影響しないような”外観の傷”や、最終製品顧客にとって”付加価値”にならない”過剰仕様”を求められるといったケースがあるようです。つまり”価格”・”納期”について厳しい要求を突きつけられれば、供給側が”品質改善”のために要する”工数”・”費用”・”工期”を削る力学(例え不正をしてでもという)が働くのではないかという仮説について考察します。

[品質を維持するのが、難しくなる理由は]:

品質を維持するのが、難しくなる理由は

品質維持が難しくなる理由は「低価格化競争の激化」が主因となっています。ただし、「要求品質の向上」よりも、「技術伝承の断絶」・「技術ノウハウの喪失」・「ベテラン社員の退職」の悩みが上回り、その対策が不正につながっていくと考えられます。製造業現場での”品質維持能力低下”も”懸念材料”です。

[“品質不正”が行われていたという情報を、見聞きしたことがあるか]: 社員が所属する企業や取引先などで、品質データ”偽装”や”改ざん”などの”品質不正”が行われていたという情報を見聞きしたことがあるという回答は40%近くに上ります。「いまだに発覚していない」とした回答も10%なのは、日本の製造業が”断崖絶壁”に立たされていることを示唆しています。しかし、そのような”深刻な事態”に直面した現場技術者は、何か”手抜き”でもしないと無理だと考えざるを得なくなるのでしょう。

[あらためて日本の製造業における、「品質」とは]: では、現場技術者たちは日本の製造業における「品質」という言葉をどのような意味として捉えているでしょうか。「故障率の低さ」や「量産品におけるばらつきの小ささ」といった見解が多いようです。しかし、「機能の豊富さ」は10%に満たないのです。すると顧客が滅多に利用しない機能の厳密な検査にどんな意味があるのか疑問が生じます。こうした”品質定義”を今後も突き詰めていくべきか、その内容やレベルを見直していくべきか・・・その点も日本の製造業が”競争力”を維持するためには熟考する必要があります。

[組織の意向を重んじる]: 一般に家族の一員は「家族のため」になるように行動しますが、それと同じように社員は「会社のため」を考えて行動する意識があります。そしてその”行動指針”は、組織内で共有されています。これが忖度(そんたく)の発生原因です。忖度以外にこの状況を説明する言葉がたくさんあります。 “以心伝心”・”あうんの呼吸”・”言わず語らず”・”ツーカー”・”暗黙の了解”・”行間を読む”・”不言実行”・・・みなさんも思い当たるフシがありませんか。家族の場合には「ツーカー」は一般的でしょうが、組織の場合にもこの考え方が通用するのです。

ただしそのような考え方は、新興企業・中小組織ではまず無いでしょう。伝統的な”大規模組織”だけのはずです。これが長ずると「お国のため」に尽くすとなる最悪のシナリオです。今回問題を起こしているのは財務省をはじめ”伝統的組織”です。現在はそのような企業は少なくなってきていますが、福利厚生が充実し”社員・職員”は、まさに「不正を内密に封じこめようとする」家族のような状態なのでしょう。

[「”本音”と”建前”」「身内論理の正当化」 → 背反規律の容認]: “本音”と”建前”が違う、ということは、自分たちに都合のよいようにごまかすという意味では、おそらく世界中の民族に共通しているようです。しかし日本の場合、もっと”深い意味”があると考えます。

”本音”は”身内の論理”に従いたい、しかし”建前”は公式の論理に従うしかない・・・そうではないでしょうか。長い”農耕民族の歴史”の中で、村社会において形成された規律が人々の体に自然体で備わっており、これが”本音”の論理です。これに従わないと”村八分”・”余計者”・ ”邪魔者”になることは誰しも望まないでしょう。

これに対し、支配者(“経営者”や”組織の長”)が自分の都合で決めて強制する規律が”建前”になります。国で定める法律もこの位置づけです。人々は、表面上”建前”に従っているように見せかけて、実は”本音”では反発しています。こういう”背反規律”の中で日本人の生活は”微妙な緊張感ある均衡”を保ってきました。

当然、自分たちの”本音”の規律を優先します。米国にはこのような”背反規律”はありません。日本のような”伝統的歴史文化”はそもそも無かったので、後付けで自分たちが取り決めた「法」を守ろうとするため、どの会社でも似たような不正がまかり通る状況にならないのでしょう。

この観点から、一連の不正事件を振り返って見ると、これは不思議でも何でもないのです。現場技術者たちは単に自分たちの”身内の論理”で不正を正当化していたということです。この”身内の論理”はどこか数社の”企業風土”ではなく、”日本国民全体のものの考え方”ですから、多くの企業において同時並行に実施されて何ら不思議ではなかったと言えます。

では、問題はなぜ今一挙にこれら不正が表沙汰になったのかです。それは、神戸製鋼の事件をきっかけに、ほとんどの製造業経営者たちが「うちは大丈夫か、徹底的に調べてほしい。」と一斉指示を出したと考えると合点がいきます。経営者たちは、後でバレルと自分の首が飛ぶので先手を打とうと必死になります。

経営者たちは本気で調査を指示します。それは、”身内の論理”を超えさせる強い指示・命令でした。だから次から次へと「不正」事実が露呈したのです。「そういうようなことはみんなやっていた」ということになると、できるだけ早く現状をさらけだして、謝罪したほうが罪は軽減されます。

製品”不正検査”は、「正式の基準自体(”建前”)が厳しすぎるので実用上はこれで問題ない」・・・それが会社の利益につながるという判断です。不正をしている、法に反しているという意識は薄れてしまいます。なので、何年も何十年も、これでやっておこうと引き継がれてきます。現場は「それほど悪いことをしているわけではない、他もみんなやっているようだし、・・・これでも十分品質は高く、現に故障も苦情も少ない」と考えて行動します。製造現場不正が問題になってから10数年経っても、尚この不正がなくならないのですから、根が深い訳です。

現場の「目的」は単純化すると「労力・コストを削減したい・・・価格競争力を維持したい・・・」という一心でしょう。「間接要因」としては、報告内容を人間が作成できるようになっているから具合悪いので、「報告を”自動生成”する」”仕組み”や”システム”がつくられていきます。今回の三菱電機でもその対策経緯が述べられていました。

その結果「検査はきちんと実施しましたと虚偽報告を提出する」ということになるので、罰則によってまずこれを止めないといけません。しかし、「事業採算に余裕がない」場合はどうしようもないので対策は困難です。「”身内の論理”優先の倫理観」への対策は、「”内部統制”強化」(“誤謬適示”機能・”予防牽制”機能)によって、不正が行われないよう歯止めをかけるべきです。この対策も事件が発覚すると、繰り返しその必要性が叫ばれるのですが徹底は難しいかもしれません。

“身内の論理”を否定する経営者の強いリーダシップが必要です。とりわけ”管理階層”の深い大企業では、経営者の”指導力”を現場まで届けるのは大変困難です。問題を起こしている製造現場は、すべて大企業で、経営者から見ると「ブラックボックス」になっているのです。検査報告書の”自動作成”だけでなく、「業務遂行状態把握全般の自動化・見える化」が必須となります。

こうした製造業の”現場改革機運”に適合する形で、”内部統制”の再考や「”業務遂行状態”把握全般の”自動化”・”見える化”」において、IT業界の果たすべき役割は従来にも増して重要性が高まると考えます。このように”コロナ渦”・”不正続出”・”災害の重篤化”・・・こうしたことがどちらに転んでもIT業界の仕事は減少することはありません。

以上

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