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vol.159 -「関税の影響は如何に? - トランプ関税はどう影響を及ぼすか」

  • 執筆者の写真: 株式会社ビジョンクリエイト
    株式会社ビジョンクリエイト
  • 10月1日
  • 読了時間: 6分

はじめに


アメリカのトランプ大統領が関税政策を強化し、世界経済に大きな波紋を広げています。


トランプ氏は「アメリカ第一主義」を掲げ、外国からの輸入品に高関税を課すことで国内産業を保護しようとしました。近年では最大規模の保護主義的政策とされています。

アメリカ国内の産業を守るためとするその一方で、消費者や企業にとっては価格上昇や供給不安などの課題が生じています。そして、それはITに関する事にも影響を及ぼしています。


今回は、トランプ関税の概要とその影響、特にIT業界への波及について考察してみたく思います。



  1. トランプ関税とは?


トランプ氏の関税政策は「アメリカ第一主義」に基づいています。彼は、外国からの安価な製品がアメリカの雇用や産業を脅かしていると主張し、輸入品に高い関税を課すことで国内産業を保護しようとしています。

具体的には以下のような特徴があります。


  • 相互関税制度

    すべての国に対して一律10%の関税を課す基本方針を設けています。


  • 追加関税

    国別に追加の関税を設定しています。中国やカナダ、メキシコなど、国別に追加関税を設定します。


  • 分野別関税

    医薬品に100%、家具に30〜50%、大型トラックに25%など、特定分野に対しても高関税を導入します。


このような政策は、単なる貿易戦略にとどまらず、外交交渉の手段としても活用されています。たとえば、フェンタニル(麻薬)の対策として、中国やメキシコに関税を課すなど、通商と安全保障を結びつける動きも見られます。



  1. 経済全体への影響


関税が経済に与える影響は多岐にわたります。以下に主なポイントをまとめます。


  • 物価の上昇

    関税によって輸入品の価格が上がるため、消費者はより高い価格で商品を購入することになります。これはインフレの一因となり、生活コストの上昇を招きます。


  • サプライチェーンの混乱

    企業は部品や原材料の調達先を見直す必要があり、製造や流通に遅れが生じることが懸念されます。特にグローバルに展開する企業にとっては大きな打撃です。


  • 貿易摩擦

    関税は他国との摩擦を生みやすく、報復関税や通商交渉の停滞を招く可能性があります。これにより、国際的な経済協力が難しくなることも想定されます。


  • GDPへの影響

    一部試算では、トランプ関税によって米国のGDPが最大で5%ほど減少する可能性があるとされています。これは非常に大きな経済的損失です。



  1.  IT業界への影響


トランプ大統領による関税強化は、製造業や農業だけでなく、IT業界にも静かに、しかし確実に影響を及ぼしています。

ITと聞くと「ソフトウェア」や「クラウド」など目に見えないものを想像しがちですが、実際には多くの物理的な機器や国際的な人材、複雑なサプライチェーンに支えられています。

関税政策はその根幹を揺るがす可能性があります。


  • ハードウェアコストの上昇と調達リスク

    例えばインフラの基盤となるサーバーやルーター、ストレージ機器などの多くは、中国や台湾などアジア諸国から輸入されています。これらの製品に高関税が課されることで、企業の調達コストが上昇し、予算や設備投資計画に影響を与えています。


    例えば、データセンターを運営する企業は、数百台単位でサーバーを購入します。関税が10〜30%上乗せされると、それだけで数千万円〜数億円規模の追加負担になります。


    一部の企業では、調達先をベトナムやインドなど関税の影響が少ない国に切り替える動きを見せていますが、品質や納期の面で課題も残ります。


  • クラウドサービスへの依存度の加速

    物理的な機器の調達が不安定になる中、企業はクラウドサービスへの移行を加速させています。

    クラウドとは、インターネット経由でサーバーやストレージ、ソフトウェアを利用できる仕組みで、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloudなどが代表的です。


    クラウドは初期投資が少なく、柔軟にスケールできるため、関税リスクを回避する手段として注目されています。


    ただ、クラウドの事業者自身もサーバーやネットワーク機器を大量に調達しているため、関税の影響を受けてサービス料金が上昇する可能性もあります。


  • IT人材市場の再編と採用競争の激化

    関税政策と並行して進められている移民制限は、IT人材の流動性にも影響を及ぼしています。


    ただし、それは必ずしも雇用の拡大を意味するものではなく、むしろ採用競争の構造変化と不安定化をもたらしています。


    米国での就労ビザ取得が難しくなったことで、インドや中国などの技術者が他国(日本やシンガポールなど)への就職を検討するケースが増加。


    日本企業にとっては、グローバル人材を採用する機会が広がる一方、言語・文化・制度面での受け入れ体制が課題となっています。


    国内外の企業が優秀なIT人材を求めて争う構図が強まり、特にクラウド、AI、セキュリティ分野の人材は引く手あまた。待遇や働き方の柔軟性が採用成功の鍵となっています。


    一方で、関税によるコスト増や業績悪化を受けて、採用凍結や人員整理に踏み切る企業もあり、雇用が安定しているとは言い難い状況です。


    企業は外部委託に頼るだけでなく、内製化(社内での開発・運用)を進める動きも強まっており、既存社員のスキルアップや再教育のニーズが高まっています。


  • サプライチェーンの再構築とリスク管理

    IT製品の多くは、複数国にまたがるサプライチェーンによって製造・流通されています。例えば、スマートフォン1台を作るのに、部品は中国、組み立てはベトナム、設計はアメリカというように、国際的な連携が不可欠です。


    関税によって一部の国との取引が難しくなると、サプライチェーン全体の見直しが必要になります。企業は、調達先の多様化や在庫の積み増し、代替部品の確保など、リスク管理の強化を迫られています。


  • 技術革新への影響とチャンス

    一方で、関税政策は技術革新の加速につながる可能性もあります。例えば、米国ではAIや暗号資産(仮想通貨)分野の規制緩和が進められており、スタートアップ企業の活性化が期待されています。


    日本企業にとっても、米国発のオープンソース技術や新しいサービスを活用するチャンスが広がっています。

    ただし、国際的技術標準やセキュリティ面から、慎重な導入と運用が求められます。



まとめ


トランプ関税はIT業界にとっても決して無関係ではありません。むしろ、企業の競争力や技術戦略に直結する重要なテーマです。今後の政策動向を注視しながら、柔軟かつ先手を打った対応が求められています。


トランプ関税は、単なる貿易政策にとどまらず、経済全体、IT業界、そして企業戦略にまで深く影響を及ぼしています。特にIT分野では、価格上昇や人材流動性の変化など、見過ごせない課題が浮き彫りになっています。

今後も政策の動向を注視しながら、柔軟かつ戦略的な対応が求められる時代です。関税という一見遠い存在が、私たちの仕事や生活にどのように関わってくるのか——その理解が未来を左右する鍵になるのかもしれません。



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