vol.160 -「仮想環境 - 1台のPCにもう1つの環境を作る」
- 株式会社ビジョンクリエイト

- 2 日前
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はじめに
我々の仕事であるIT開発の現場では、「仮想環境」という技術を用いる事があります。
大雑把に言ってしまうと、この技術は、PCの中に、もう1つ別のPCを作るようなものです。
PCを作ると言うと、難しそうに思われるかもしれませんが、実際はそう難しい訳ではありません。
仮想環境を作り出すソフトウェアが充実していますし、「OSのサポート切れたので、そのまま使い続けるのはリスクがある」や「昔の業務で使っていたソフトが動かない」等といった課題を解決する手段にもなる、とても実用的な技術と言えます。
今回は「仮想環境とは何か」「どんなメリット・デメリットがあるのか」などを記事にしてみたく思います。
仮想環境の仕組を理解する
仮想環境について、冒頭でPCの中にもう1つ別のPCを作ると申し上げましたが、もう少し加筆すると、「ソフトウェアを使って、ハードウェア(部品)をエミュレート(模擬)する技術」のことです。
1-1. 現実のPCと仮想PCの違い
普段使っているPCは、CPUやメモリ、ストレージといった部品(ハードウェア)の上に、WindowsやmacOSといったOSが動いています。
仮想環境では、ホストOS(今使っているPCのOS)上で動く専用ソフトウェアが、架空のハードウェアを作り出します。この架空のハードウェア上で動くOSをゲストOSと呼びます。
この技術を使えば、例えばWindows PCの中に、別のバージョンのWindowsや、全く異なるOSであるLinuxを同時に動かすことができます。
1-2. 仮想化ソフト
この仮想環境を実現するためのツールが「仮想化ソフト」です。
以下に代表的なものを挙げます。VirtualBox、VMware、Hyper-Vは、PC全体を仮想化するのに対し、Dockerは非常に軽量で、アプリケーション開発の現場で特に注目されています。
・VirtualBox
無料で使える有名なソフトです。個人利用や開発テスト環境の構築に人気です。
・VMware
高機能で安定性が高いソフトです。開発現場で広く利用されています。
・Hyper-V
WindowsのPro版で標準搭載されている機能する。サーバーの仮想化に強みがあります。
・Docker
コンテナと呼ばれる、アプリケーション実行に必要な環境だけを仮想化することもできます。
仮想環境を使うメリット
仮想環境は、開発者だけでなく、一般のユーザーや企業全体にもメリットをもたらします。以下にメリットの幾つかを列挙します。
2-1. 安全な「お試し」環境が手に入る
仮想環境は、ホストOS(今使っているPCのOS)からは隔離された独立した空間の様なものです。
仮にですが、ウイルスやマルウェアをこのお試し環境で実行してもホストOSには影響が及びません。
また、大規模なOSのアップデートやシステムの変更等の影響を、ホストOSに影響することなく、事前に検証することが可能です。
これはホストOS(今使っているPCのOS)を守る為の重要なセキュリティ対策の一つとも言えます。
2-2. 複数のOSや環境を同時に利用できる
例えば、「いまMacを持っているが、あるWindowsのソフトウェアを使いたい」といった様な事が可能になります。
これはITエンジニアが特に恩恵を受けるものでもあります。Windowsで開発をしながら、Linuxの環境でサーバーのテストを行う、といった様な作業を、一台のPCで作業を完結する事が可能です。
2-3. ハードウェア資源の効率的な利用
仮想環境の技術を利用する事で、使っていない古いPCを何台も置いておく必要が無くなります。
高性能な1台の物理サーバー上に、複数の仮想PC(サーバー)を構築する事で集約できます。
これにより、古いPCの設置場所や、維持管理にかかるコストを削減することが可能です。
2-4. 即時の復元が可能
仮想環境の特徴の1つに、その瞬間の状態を記録しておく機能があります。(スナップショット)
もし仮想環境上のシステムが壊れたり、システム設定を誤って不備が生じた場合でも、記録していた状態を呼び出せば、ものの数秒で正常な状態に戻すことができます。
現実のPCでは不可能な、仮想環境ならではの保険と言えるでしょう。
2-5. 環境の移動が容易
仮想環境で構築したPC(ゲストOS)は、一つのファイルとして保存する事ができます。
このファイルをUSBメモリやクラウドにコピーすれば、別のPCに移動させても、全く同じ環境で作業を再開することができます。
昔であればPCや機材等を持ち込む必要があった作業が、非常に手軽に行う事ができます。
仮想環境を使うデメリット
非常に有用で便利に見える仮想環境ですが、利用するにあたってデメリットや注意点もあります。デメリットと対策を理解しておきましょう。
3-1. 動作速度の低下
仮想環境は、物理的なPCの資源(CPUやメモリ)を、ホストOSとゲストOSで分け合って利用することになります。
そのため、ゲストOSは物理PCと比較して動作が遅くなることがあります。
仮想PCに割り当てる資源(CPUやメモリ)の量を最適化することで対策は可能です。
ただし、特に高い処理能力を必要とするような作業は、仮想環境には向かない場合が多いので、効率性含め適時見分ける必要があります。
3-2. 初期設定と管理の手間
仮想環境を構築し、ネットワーク設定を行うには、ある程度のIT知識が必要です。特にサーバー用途で使う場合は、OSのライセンス管理やセキュリティパッチの適用など、物理PC以上の管理が必要です。
構築や初期設定には専門知識を持つ人に担ってもらうのが最適です。
3-3. ハードウェアの活用の限界
ゲストOSは、仮想化ソフトによって抽象化されたハードウェアしか利用できません。
例えば、最新のグラフィックボードの特殊な機能や、ある特定のUSB機器などは、ゲストOSから利用することができない(もしくは設定が非常に困難)場合があります。
利用が困難なハードウェアを必要とする作業は、物理PC(ホストOS)側で行う、といった対策が必要です。
サポート切れOSの延命策
※こちらですが、先日10月14日にWindows10がサポート終了になったこともあり、章立てで記します。
先日サポート終了となったWindows10ですが、OSのサポートが切れてしまうと、セキュリティパッチの提供が終了したり等のセキュリティ上の問題が生じます。
対策として良く言われるのは、最新のOSへの移行ですが、特定の業務アプリケーションによっては、新しいOSでは動作しないというケースが多々あります。
そこで仮想環境の出番です。
昔、Windows7には、XPモードと呼ばれる機能がありました。これはWindows7上に、仮想のWindowsXP環境を作って動作させるというものでした。
(個人的で恐縮ですが、筆者が仮想環境というものを知ったのはこの時です)
これと同じように、サポート切れのOSを利用する業務アプリケーションを、仮想PCの中に完全に隔離して動作させる、という手段を取ることができます。
これは応急処置的な方法であり、根本的な解決策では言えませんが、新しいOSへの移行作業が完了するまでだったり、代替のシステムに切り替えるまでのリスクを抑えるための現実的な手段として有効です。
まとめ
仮想環境は、ITエンジニアにとって非常に有用なツールですが、決してITエンジニアだけのツールではないです。
危機管理対策(サポート切れOSの隔離)
セキュリティ対策や強化
コスト削減(ハードウェアの整理/統合)
などといった課題を解決することができる、強力なツールと言えます。
「動かしたいけど動かせないソフトがある」「古いので動かすのが心配」といった事があれば、まずはVirtualBoxなどの無償ツールを試してみるのも有りかと思います。
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