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  • 執筆者の写真株式会社ビジョンクリエイト

一分間の沈黙 第250号


多くの方がその名前をご存じだと思います。トム・ハンクス。

とても憶えやすい名前です。

彼が主演した映画は多く、アカデミー賞や民間人として最高位の勲章も授与されています。

多くの俳優の中でも多才な才能を持っている人です。

私自身、この俳優が好きなのですが、若い頃はここまで有名になるとは思いませんでした・・・

その当時から非凡な才能に興味があり、主演作はよく観ていました。


私自身は洋画好きで、高校生になった頃から街中の映画館に出掛けて映画を観ていました。その頃に観た洋画で印象に残っている作品は「ボニーとクライド」、「アラビアのロレンス」、そしてキャンディス・バーゲンという女優が出ていた映画でした。

トム・ハンクスの映画を観たのはもっと後からで、「ビッグ」という人魚と人間の恋愛物語に主演している映画の中で初めて彼を観て、映画自体も彼も普通とはちょっと違うなという印象でした。

それからは、彼の主演する作品を観る機会が増えて行きました・・・

彼の作品には、主人公がひたむきな生きる姿や精神面の強さ、人とは異なる強い個性を感じる作品が多く、ストーリーも演技力にも独創的な面が多く、他とは異なる違和感もあれば、内面的な共感を感じるシーンも多いことを感じ始めました。


表現の仕方が難しいのですが、「後年になってもう一度、二度、いや三度は観たくなる」、そんな映画が多いです。

作品では人間が中心で、普段は心の中に閉じている思いやり、慈しみ、憎み、孤独、希望、そして悲しみが溢れ出ています。あれこれストーリーや演技に注視するよりも感性や魂に語りかけて来る感じがします。

知らない間に、その映画の中に自分が入り込んでいるのです。忘れかけていた大切なものを思い出させてくれる、演技というよりは彼自身の考え方や生き方を感じさせるような強くて個性的な揺さぶりに気持ちが入り込んでしまいます。


今まで観た作品は「ビッグ」、「プライベート・ライアン」、「めぐり逢えたら」、「ユー・ガッタ・メール」、「フォレスト・ガンプ」、「キャスト・アウェイ」、「ターミナル」などで、本コラムで紹介する「幸せへのまわり道」もその一つです。

出演作が多くて全てを私は観ている訳ではありませんが、タイトルを挙げただけでその個性的な内容やシーンが思い出されます。


最後に挙げた「幸せへのまわり道」というタイトル、何か内容まで感じてしまいませんか?

まわり道して幸せになったという作品です。

主人公は二人います。

一人はもう一人の主人公から自分自身をはっきりと気付かせて貰い、自ら変革の行動を起こしました。その行動の結果がこのタイトルなのです。

もう一人の主人公は先の主人公に色々な示唆を与え、自分で気付かせ、乗り超えられるよう支援してくれる人物です。それがトム・ハンクス演じるある人物なのです。

トムが演じているのはピッツバーグのテレビ局で幼児番組に出演している人気キャスターで、この人物は実在した有名なキャスターです。もう亡くなっていますが、写真を見るといかにも優しそうな表情をしています。


少し話はズレますが、トム・ハンクスは失礼ながら二枚目でもないし、しゃれた服装で画面に出て来る訳でもありません。まだ60歳半ばなので、これからも記憶に残る作品をまだまだ残してくれると期待しています。

また、ご本人は役柄や脚本にも強くこだわっている俳優だと思います。


さて、この「幸せへのまわり道」ですが、原題は「A Beautiful Day in the Neighborhood」です。

意訳すると「ご近所さんとの心温まる日」ですが、映画を観ていたら、その意味がよく分かって来ます・・・

タイトルは平凡ですが、優しい表現です。

トム・ハンクスが演じる主人公は“フレッド”と呼ばれています。また、番組内で話しかける相手は自分が製作した指人形達なのです。

対するもう一人の主人公は“ロイド”といい、ニューヨークの雑誌社で記者をしており、ある日、上司からフレッドへ会って来て短い紹介記事を書くように指示されます。

ロイドはそんな仕事に不満を抱きながらも、ピッツバーグのフレッドへアポ取りの連絡を入れます。

そこからフレッドのロイドへの接触が始まるのです。

簡単に済むはずだった取材がフレッドからの質問で右往左往させられ、やがて何回も取材に出かけフレッドと会うことになります・・・

ピッツバーグで、ニューヨークでと、次第にロイドはフレッドに対しての取材だったのに自分がフレッドにいろいろ取材されているようになります。

そして、自分が逆の立場になっていることを気付きます。フレッドはロイドに会った早い段階でロイドが大きな悩みや過去を持っていることを感じ取っていたのです。

次第に、ロイドはフレッドに自分をさらけ出すことになってしまい、自分でも苦悩し反論もします。その矛先は妻であったり、ロイドの問題相手である父の”ジュリー”へも向かいます。父との決定的な確執がロイドの人生を決定づけていたのでした・・・

それをフレッドは次第にフレッドの言葉を思い出しながら自分自身と格闘することになるのでした。


ロイドの父親は幼い頃に母親と兄弟を捨てて他の女性の元へ去って行った父親だったのです。そのことがロイドは許せないばかりか、ずっと憎み続け、父親が気まずい仲を少しでも何とかしようと訪ねて来ても、さっさと追い返すのでした・・・

当たり前でしょうが、ロイドの心の傷跡は深く、今は重い病気にかかっている年老いた父ですが、その後の話や当時の話もろくに聞かず、ずっーと許せないのでした・・・


そんなある日、フレッドへ取材に出かけたロイドはフレッドから食事に誘われます。

普通のどこにでもある小さなレストランです。

そのレストランでフレッドはロイドへある話をします。

私はそのフレッドの一言に我が身を振り返りました・・・

自分がロイドだったからです・・・


フレッドはロイドへこう言いました。

「私は一日の中で1分間だけ、自分の大切な人を想い、沈黙する時間を作っている」と。


どんなに忙しくても一日の中でたった1分だけ素直な気持ちになり、大切な人を想えば

自分の毎日はもっと違ったものになっていたのではないかとロイドは気付かされます。

誰も気付かない、いつでも出来る、たったの1分間を大切な人を想えば、これだけで人生が大きく変わる、人とうまく融和していけるとフレッドは言いたかったのでしょう。

気が付けば、周りにいたお客達もフレッドと同じように沈黙していました・・・


私もこれなら出来るし、道具も場所も時間も関係ないので、これからはやってみようと思います。

「1分間だけ大切な人を想う・・・」、こんなことは誰でも出来ます。

理論理屈でなく、単にやり続ければいいのです。1日の中のたったの1分、1440分の1の短い時間です。


フレッドの話は分かりやすく強制もしません。

流石に幼児番組でキャスターをやっているだけあって、子供に諭すような鋭い心を持っていて視聴者に人気があるのです。

その証拠に、たまたま地下鉄の電車内で乗っていた人達からフレッドだと気づかれ、番組のテーマソングらしい歌の大合唱になりました・・・

そんなフレッドが、たまたま取材で来たニューヨークの雑誌社の不満だらけに生きているロイドに出会った訳です。鋭いフレッドはどこかでその事を感じ、見抜いたのではないでしょうか?・・・


ロイドは出版社内でも短い執筆しか与えて貰えず、上司はそんなロイドへ短い紹介記事の取材を命じたのでした。

しかし、フレッドの取材記事は指示された執筆量には収まらず、ロイド自身の経験したことやフレッドの出会いを記事にまとめて上司へ提出したら、その上司が素晴らしかった、これは凄いと特集を組んで発売されることになり、全米で有名な雑誌に掲載されました。

普通ならこの物語はこの辺で終わるのですが、フレッドは自分のわだかまりを捨てて父親に会いに行き、重い病いでベッドに寝ている父親と話をし、そして和解します。


ロイドはフレッドと会って話をするうちに次第に自分の心が揺れ始め、ロイドの言った言葉や内容を思い返したり、回想したりと徐々に自分自身が変わり始めるのでした・・・

自分のことばかりではなく、相手や周囲のことも赦せるようになったのです。

やがてロイドは心の鎖が外れ、憎かった父親を赦し、父親の家で家族達で最期の日々を過ごすのでした・・・

その頃、実家へ何の前触れもなくフレッドが訪問して来ます。

そこにいた父親やその妻やロイドの家族などと一緒に食事し、ケーキも食べて、皆が笑い顔で話している姿は素晴らしい光景した・・・


やがて、父親が息を引き取る時がやって来ます。

父親の顔は以前とは違い、幸せな穏やかな表情になっていました。


この映画は私の心に残るものなりました。

私自身も父親とは多感な頃から分かち合えるない部分が多く、父親を憎み疎ましく思って生きて来ました。このままではいけないと思いながらも、既に父は亡くなってしまいました。

最後まで父親と和解することが出来ませんでした・・・

私はダメな人間だったのです・・・

今はとても後悔しています・・・しかし、もう過去には戻れないのです・・・

そう言えばこんな出来事を憶えています。

母親が先に亡くなり、徐々に記憶力が衰え始めた頃、故郷の警察から私の携帯に電話がありました。父親が怪我していて連絡先らしき紙を持っていたので連絡しましたと・・・

地元に子供もいるのに、どうして私の電話番号なんか持っていたのだろう?・・・

私は4人兄弟です。

後で親戚の叔母から「一番心配していた子供だったからよ」と言われた時には、胸が詰まりました・・・でも、父はもういません・・・ロイドの苦しみが他人事には思えなかったのです。


この映画は簡単に言えば、不幸に思えたこと、腹立たしく思えること、悔しさ一杯のこと、人を恨んだことなど、結局は相手よりも自分の心が問題なのだと教えてくれる作品でした。

人は自分ではなく相手や周囲に変わって欲しいと思います。

しかし、相手に求める前に自分が変えれば、相手も変わるかも知れないのです。

相手に原因があっても赦すことは出来ます。憎んでいるだけでは前へ進んでいかないことを自分も分かっている筈なのです。

でも、自分はなかなか変われないのです・・・


自分の気持ち次第で人生は変わることを思い知らされた映画でした。

この映画のタイトルは「幸せへのまわり道」です。

皆さんも映画を観て貰えれば、この意味がよく実感できます。

私の付けたタイトルもご納得いただけると思います。

相手に求める前に自分が変わるきっかけ、それが1分間の沈黙です。

無私の心でしょうか・・・

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